「夢十夜」伏線の張り方やその回収が実に不気味できれい<アイラヴ漱石先生朗読館=2023年1月1日放送>

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熊本日日新聞 2023年1月1日 00:00
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ

おはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック、アイラヴ漱石先生が令和4年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを、熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、尚絅高校1年生の北村紗希さん、大山田安祐美さんと、漱石の小説、夢十夜の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。

<朗読>「夢十夜 第一夜」
こんな夢を見た。腕組みをして枕元(まくらもと)に坐(すわ)っていると、仰向(あおむき)に寝た女が、静かな声でもう死にますという。女は長い髪を枕に敷いて、輪廓(りんかく)の柔らかな瓜実顔(うりざねがお)をその中に横たえている。真白(まっしろ)な頬(ほお)の底に温かい血の色が程(ほど)よく差して、唇の色は無論赤い。到底死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然(はっきり)いった。自分も確(たしか)にこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗(のぞ)き込むようにして聞いて見た。死にますとも、といいながら、女はぱっちりと眼を開けた。大きな潤(うるおい)のある眼で、長い睫(まつげ)に包まれた中は、ただ一面に真黒(まっくろ)であった。その真黒な眸(ひとみ)の奥に、自分の姿が鮮(あざやか)に浮かんでいる。

<本田>それでは今日は、尚絅高校1年生の北村紗希さん、大山田安祐美さんと、漱石の小説、夢十夜の魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。

<西口>漱石にとってイギリス留学は苦々しい体験となりました。明治36年、1903年に帰国した漱石は、大学での仕事をしながら小説を書き始めます。そして次第に創作することだけに専念したいという思いが強くなっていきました。1907年、40歳で大学を退職し、朝日新聞社に入社。その後49歳で亡くなるまでの10年間、漱石はひたすら新聞を中心に小説を書き続けたのです。夢十夜は、明治41年、1908年の7月25日土曜日から8月5日水曜日までの10日間にわたって朝日新聞に掲載されました。漱石が見た10日間の夢を記録したという体裁で書かれた作品です。例えば第一夜の美しさ、第三夜の不気味さ、10の夢は時間も空間もまたその内容もそれぞれに異なります。とはいえ、第八夜にちらりと登場する庄太郎を再び第十夜に登場させるような書き方にも読者への挑戦、理解できるならやってみろというような漱石の挑戦が感じられます。夢を言語化するという難しいことをあえてやったのは、当時の漱石の自分自身への挑戦でもあったはずです。この夢の物語を書きながら、漱石はきっと書くことの喜びを覚えていたろうなぁと思えてなりません。そこに流れる生と死、闇、夜のテーマ、漱石の心の中にある不安、恐怖、憧れ、悲しみ、恐れ、そういったものが凝縮され紡がれた美しくも恐ろしい商品、読んでほしい作品です。

<本田>ではここからは3人で作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。

<西口>はい、今日はよろしくお願いします。

<高校生>よろしくお願いします。

<西口>はい、ではまず一夜から十夜までのどこがいいなと思ったんですか、大山田さん。

<大山田>書き方にまず惹かれて、私自身小説嫌いで、長い話を読んで、読みさしてっていうのが苦手で、途中が気になったりとか長すぎてやーめたってなったりするところなんですけど、この夢十夜は10個に区切ってあるので短く、内容であれば三夜と十夜が好きっていうのを発見しました。

<西口>じゃあそこはまた後で聞こうね。

<大山田>はい、お願いします。

<西口>北村さんはどうですか。

<北村>この話はすべて一つ一つにいろんな工夫がされているところがやっぱ全体的に言ってとても面白かったって思ったんですけど、ここがいいなって思ったところは2つあって、1つ目は第一夜から第十夜にだんだんとなるにつれて、なんかまるで主人公が目覚めていくように工夫されているところがまず面白いなと思ったんですよ。なんか一、二、三、五夜は冒頭がこんな夢を見たっていう始まりなんですけど、そして主人公が不思議な体験を前半はするんですよね。でも九、十夜になると主人公は話を聞いているだけで不思議な体験をしていないんですよ。そこに気づいた時は自分でも驚きましたし。

<西口>理解する自分の力に驚いた。

<北村>こんな工夫があったんだみたいな、そういうので本当ここはとても熱いなって思いましたし、もう1つは第七夜の主人公が海に飛び込んじゃう場面ですよ。私、中学校の頃に1回だけ崖から落ちる夢を見たんですけど、なんかヒューって落ちるところ、夏目漱石が海から落ちるところを上手く文章で表現していて、思わず私ヒューってなったんで、なんかそうやって読者にそういう感情をさせる、そういうところがまた面白いなって思いました。

<西口>共感させてくれるところがいくつもありましたもんね。今、北村さん第七夜を喋ったからね、大山田さんは好きなことも喋りたくなったでしょ。

<大山田>はい。

<西口>ちょっとじゃあ、どこのところを話すか決めているでしょ。そこを話してください。

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