「坊っちゃん」野だいこは一番嫌いなキャラ ラストはスッキリ <アイラヴ漱石先生朗読館=2022年12月25日放送>
#読むラジオおはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック、アイラヴ漱石先生が、今年4月に発刊されました。夏目漱石は第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを、熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、必由館高校2年生の木村幸乃さん、 塚本雪乃さんと、漱石の中編小説、坊っちゃんの魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。
<朗読>「坊っちゃん」
赤シャツはホホホホと笑った。別段おれは笑われるような事を言った覚(おぼえ)はない。今日(こんにち)ただ今に至るまでこれでいいと堅(かた)く信じている。考えて見ると世間の大部分の人はわるくなる事を奨励しているように思う。わるくならなければ社会に成功はしないものと信じているらしい。たまに正直な純粋な人を見ると、坊(ぼ)っちゃんだの小僧(こぞう)だのと難癖(なんくせ)をつけて軽蔑(けいべつ)する。それじゃ小学校や中学校で嘘(うそ)をつくな、正直にしろと倫理の先生が教えない方がいい。いっそ思い切って学校で嘘をつく法とか、人を信じない術(じゅつ)とか、人を乗せる策(さく)を教授する方が、世のためにも当人のためにもなるだろう。赤シャツがホホホホと笑ったのは、おれの単純なのを笑ったのだ。単純や真率(しんそつ)が笑われる世の中じゃ仕様がない。清はこんな時に決して笑った事はない。大(おおい)に感心して聞いたもんだ。清の方が赤シャツよりよっぽど上等だ。(「五」より)
<本田>それでは今日は、必由館高校2年生の木村幸乃さん、塚本雪乃さんと漱石の中編小説、坊っちゃんの魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を元、高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。
<西口>イギリスから帰国した漱石が気晴らしのためにと筆を取った、第1作目の小説「吾輩は猫である」、そして第2作目がこの「坊っちゃん」です。1906年(明治39年)4月に俳誌「ホトトギス」に発表されたとてもポップな作品です。発表されてから、116年経った今でも、この作品は多くの読者を持っています。その理由はテンポの良さ、登場人物の個性、何より主人公坊っちゃんの姿を借りて、漱石が言いたい事、やりたい事をノリノリで書いているところにあるのでしょうね。28歳の漱石は四国・愛媛県の松山中学校に英語教師として赴任しました。その1年後には熊本にやってくるわけですが、江戸っ子漱石が地方の言葉や習慣に触れる最初の出会いが、この松山であったわけですから、漱石の心に強い印象を残したのは確かです。幼くして夏目の家から養子に出され、後に家に帰ってからも居心地の悪い体験をした漱石。家族の愛を知らないどこにも居場所を持たない漱石は、この小説の主人公坊っちゃんと重なります。赤シャツ、野だいこ、山嵐、うらなりなどなど癖の強いキャラクターが勢揃い。江戸っ子の坊っちゃんと松山弁の生徒たちとのやりとりも体験に基づくものでしょう。悪者たちをやっつけて、唯一理解を示してくれる清の元へ、坊っちゃんは無事に帰れるのか、破天荒、無鉄砲そんな坊っちゃんが巻き起こす痛快ハードボイルド、 実に読みやすい筆読の書です。
<本田>ではここからは、3人で作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。
<西口>はいよろしくお願いします。
<高校生>お願いします。
<西口>幸乃さんと雪乃さんですね。
<高校生>はい。
<西口>ではその2人のユキノさんと話しますが、お二人がね、たくさんの作品の中で坊っちゃんを選んだのはなぜですか。木村さん教えてください。
<木村>先生にお勧めされたから読みました。
<西口>国語の先生ですか。
<木村>はい。
<西口>さあでは勧められたその坊っちゃんですが、実際に読んでみてどんな感想を持ちました、塚本さん。
<塚本>現代の人だったら、なんか坊っちゃんの性格とかはちょっと痛いって思うところもあると思うんですけど、その当時の人がこの坊っちゃんっていう作品を読んだらどう思ったのかなぁ、というのは私は感じました。
<西口>どう思ったんだろうね。
<塚本>当時の人は坊っちゃんみたいな人がいっぱいもしいたなら、賛同する人が多かったのかなぁって。
<西口>坊っちゃんはなかなかな暴れん坊なんだよね。そこね好きと思う人ももちろんいるわけでしょ。私なんかすごく好きだけれど厄介だよねって思われる節はもうたくさんあるよね。でもどっちかといえばでも奇想天外でいいじゃないかこのやり方っていうところで人気があったのかもしれないなと思うけどね。ではたくさんね、登場人物が出たじゃない。どの人に惹かれましたか、木村幸乃さん。
<木村>はい、私は清に惹かれました。なんか本の全体を読んで理不尽な上下関係が描かれているとこが結構あって、そんな中でもその合間合間に、清のあったかいやりとりだったりが挟まれることによって、そのほんわかするのでやっぱり清が好きです。
<西口>では塚本さんは。
<塚本>私は強いて言うなら坊っちゃんが好きです。
<西口>強いて言うならっていうところをちょっともう少し説明してください
<塚本>坊っちゃんの自由奔放で言いたいことをその場でその人に直接言えるような性格は、すごく私自身憧れもあって好きなんですけど、もし私の身近にいたときはちょっと苦手な存在になるんじゃないかなって思って、そこでちょっと強いて言うなら好きっていうところになりました。
<西口>わかるわかる。そして私はそのそれになってないだろうかと今ちょっと不安になった。あのね、えっと赤シャツとかについてはどんなことを思った。
<塚本>悪いなぁと思う。
<西口>野だいこはどうですか、塚本さん。
<塚本>野だいこはなんか赤シャツにぴょこぴょこついていってる感じで、もう一番なんか私は嫌いなキャラです。
<西口>もう女子高生の敵なところがあるよね。いいキャラクターというかあの物語の中ではあれがいるからまた坊っちゃんがね引き立つようなところがあります。赤シャツたちから坊っちゃんって呼ばれる時と、清から坊っちゃんって呼ばれる時って坊っちゃんの意味がなんか違わない。そこはどう理解してますか、木村さん。
<木村>赤シャツから呼ばれている時は、けなしているような冷たい言い方のような気がします。で、清の時はあったかいおばあちゃんのような声が聞こえる気がします。
<西口>そこに愛がある感じがしますね。赤シャツとかはね、物知らないまだまだ子供だなぁみたいなバカにした感じがねすごくするもんね。まっすぐにしか生きられない坊っちゃんっていうキャラクターなんだけど、なぜ漱石はあの作品の中であんなに暴れさせたんだと思いますか、塚本さん。
<塚本>まあラストは読んでる大半の人が多分スッキリすると思う。で、そのスッキリを大きくさせるためには、暴れてるところを大きくすればするほどラストのなんかスカってする感じが読んでて気持ちいいと思うから、そうしたんじゃないかなと思います。
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