「それから」最初と最後が赤くなっていることに気づいて<アイラヴ漱石先生朗読館=2022年12月18日放送>
#読むラジオおはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック、アイラヴ漱石先生が、今年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3ヶ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを、熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、真和高校2年生の山口雄平さん、1年生の恒松大智さんと、漱石の長編小説「それから」の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。
<朗読>「それから」
「今日始めて自然の昔に帰るんだ」と胸の中でいった。〔略〕始(はじめ)から、何故(なぜ)自然に抵抗したのかと思った。彼は雨の中に、百合の中に、再現の昔のなかに、純一無雑に平和な生命を見出した。その生命の裏にも表にも、欲徳はなかった、利害はなかった、自己を圧迫する道徳はなかった。雲のような自由と、水の如き自然とがあった。そうして凡(すべ)てが、幸(ブリス)であった。だから凡てが美しかった。(十四の七)
「打ち明けて下さらなくってもいいから、何故」といい掛けて、ちょっと躊躇したが、思い切って、「何故棄ててしまったんです」というや否や、また手帛(ハンケチ)を顔に当ててまた泣いた。
「僕が悪い。観念してください」(十四の十)
<本田>それでは今日は、真和高校2年生の山口雄平さん、1年生の恒松大智さんと、漱石の長編小説それからの魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。
<西口>それからは、1909年(明治42年)6月27日から10月14日に、朝日新聞に連載された長編小説です。漱石は、41歳の時に「三四郎」、42歳の時にこの「それから」、そして43歳で「門」、と、いわゆる前期三部作を次々と書きました。あの松田優作が主人公を演じた映画それからをうっとりと思いながら、今日はあらすじを紹介しましょう。30歳を迎えようとしながらも、お気楽な生活を続ける主人公、長井代助、自称、高等遊民、これは漱石の造語で、有閑知識人とでも言うべき語でしょうか。裕福な実家から経済的な援助をもらって、悠々自適の生活を送っている代助の前に、関西の銀行に勤めていた学生時代の友人平岡が、妻の三千代と共に姿を現します。彼は失業し、夫婦の間もうまくいっていません。実は、この三千代と代助は、かつて互いに思い合っていた仲だったのです。自分よりも生活力のある平岡と結ばれる方が、三千代の幸せになると思った代助は、この二人の仲を自ら取り持ったのでした。今、目の前にいる幸薄い三千代を見て、諦めていたはずの心に再び火がつきます。悩み抜いた末に代助は、自分が持っている全てを捨てて、ただ三千代と二人だけで生きるということを選ぶのでした。一言で言えば、これは略奪愛の物語です。姦通罪というものがあった当時としては、漱石先生はかなり責めています。ただし、漱石の手にかかると、それが文学的になります。例えば、作中の花たちの美しくて暗示的なこと、それからのそれからが門という作品になります。
<本田>では、ここからは三人で、作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。
<西口>はい、恒松くんと山口くん、今日はよろしくお願いします。
<高校生>よろしくお願いします。
<西口>まず、それからという作品をなぜ選んだのか教えてください。山口くん。
<山口>私の場合は、前回の収録で三四郎を選んだので、今回の収録ではそれからを読もうと思って選びました。
<西口>なるほど、前期三部作の繋がりということね。恒松くんは?
<恒松>僕は先輩からこういう本を読もうということで、読み出したんですけども、読んでみると、とても不思議なところもあって面白かったですね。
<西口>不思議なところというのは、どういうところが不思議だったんですか?
<恒松>特に代助が三千代をとるか、自分の生活をとるかというところで、百合の花が出てきたシーンが、とても幻想的で不思議な感じがしました。
<西口>そこが不思議だったわけね。あそこは印象的なシーンです。いきなりその印象的な、もう確信のところに恒松くんいったけど、山口くんはどうですか?そこのところをちょっと話す?百合のシーンについてあなたはどう感じましたか?
<山口>とても幻想的で美しすぎて、逆にちょっと不吉だなって感じました。これからの将来がうまくいきそうでいかなそうな感じで、そんなことを暗示しているんじゃないかなと思って。
<西口>花がいくつか出てきますよね、この作品で。一番最初のシーン、椿が落ちるシーンがあるじゃない。あの椿に対しては山口くんは何か感じた?
<山口>最初読んでいるときは、なんでこの椿が落ちるシーンが最初にあるんだろうと不思議に思っていたけど、最後の方を読んでみると、代助のこれからを最初から示していたんじゃないかなと思いました。
<西口>さっきの百合は白くて幻想的な美しさ。最初の場面は赤い椿がぼとりと落ちる代助のこれからを、もうすでに最初から暗示しているのだと。恒松くんはどう?
<恒松>僕はもう最初は全然気づかなかったぐらいのシーンで、一回読むだけじゃなかなか分からないところがあったので、何回か読んでいくうちに最初と最後が赤くなっていることに気づいて大変驚きました。
<西口>最後はもうめちゃくちゃ赤い世界に代助は入り込んでいきますよね。
<山口>はい。
<西口>ちゃんと漱石はそこら辺も計算して書いているのでしょうね。それからという作品の特に自分がここはもう語りたいわっていうようなところがあったら、それを話してくれますか山口くん。
<山口>代助が三千代にお金を貸すシーンのセリフで「指輪を受け取るならこれを受け取っても同じことでしょう。紙の指輪だと思っておもらいなさい」っていうセリフがあって、そこのシーンにめちゃくちゃキュンときました。
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