食パンの端はどこへ… 食品ロス削減で「本仕込」黒豚に変身!? 工場にそびえる「パンの塔」 他県ではビールにも

熊本日日新聞 | 2022年8月19日 07:30

焼き上がった食パンを冷ます「スパイラルクーリング」。円柱状の機械3台の中を食パンが約2時間かけて通過する=熊本県宇城市
九州フジパンの熊本工場では食パンの端が1日に約1トン発生する

 「食パンの端は工場でどう処理されているのでしょうか?」。熊本県合志市の男性農家(66)が「SNSこちら編集局」(S編)に疑問を寄せた。県内で「金曜ロードショー」の前に流れる天気予報に登場するパン工場を見て気になったという。記者は「大人の社会見学」とばかりに宇城市の九州フジパン熊本工場に〝潜入〟した。

 フジパングループは創業100年。熊本工場は24時間365日稼働しており、食パンや菓子パンなど80種類、月に約450万個を製造する。使用する小麦は月500トンに上る。

 製造統括課長の岡真行さん(43)の案内で、特別に工場内を見せてもらった。不織布のつなぎ服や帽子を着用。靴を履き替えた後、検温や手洗い、25秒間のエアシャワーなどの衛生対策を終えて工場内に入る。38度の室温に汗が噴き出すと同時に、焼きたてパンの香りに包まれた。

 と、奥の部屋で目にした光景に思わず息をのんだ。食パンがぎっしりと詰まった円柱状の機械が並び、ゆっくりと回っている。まるで「パンの塔」だ。

 「焼き上がった食パンを冷ますスパイラルクーリングという装置です」と岡さん。必殺技の名前のような高さ5メートルの機械3台の中を、食パンが約2時間かけて通過し、常時1万1千斤を冷ましている。毎日、大量のパンの端が出ていることは想像に難くないな。なら、それはどこへ?

 食パンの端は冷却後にカットされる。厚さ7ミリほどで1日に約1トン発生し、2002年の工場稼働時からすべて飼料として人吉市の加藤畜産に定額で譲り渡しているという。加藤畜産ではパンの端7割に配合飼料3割を混ぜて黒豚に与えている。取締役の加藤小枝子さん(70)は「パンを食べて育った黒豚は油の質が良くなり、肉の甘味がよく出るんです」。鹿児島県内の百貨店やスーパーで販売され人気だという。

 フジパン(名古屋市)グループでは、全国の工場から出る食品廃棄物の98・3%を再資源化している。

 さて、食品ロス削減の動きは他のパン会社でも進んでいる。おもしろいところでは、給食や業務用パンを製造する栄屋製パン(神奈川県海老名市)の取り組みだ。各地のビール醸造所と協同で、余ったパンの耳を原料にクラフトビールを製造、6月からネット販売している。ビジネスとしての展開はまだこれからというが、同社は「サステナブル(持続可能)への挑戦に醸造所の賛同が得られた」と手応えを口にした。こうしてパンの端は、黒豚やビールへと変身を遂げている。(立石真一、太路秀紀)

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