真相 埋もれる懸念も/検察 丁寧に説明を 取材担当記者座談会 [くまもと発・司法の現在地/不起訴の陰影⑦]

熊本日日新聞 2022年6月11日 12:31

 増える不起訴の背景に何があるのか。連載「不起訴の陰影」では、県内で起きた事件や事故を改めて取材し、明らかにされない検察の処分の理由や経緯に迫った。連載を終え、取材を担当した記者たちが、刑事司法や事件報道について思いを語り合った。

不起訴が増える現状について語り合う記者たち=熊本市中央区の熊本日日新聞社(横井誠)
不起訴が増える現状について語り合う記者たち=熊本市中央区の熊本日日新聞社(横井誠)

 植木泰士 連載のきっかけは「最近、不起訴が多いな」という素朴な疑問だった。統計を調べると、実際に不起訴の割合は年々増えていた。理由や背景を探りたくて取材を始めたが、壁にぶち当たった。起訴されて公開の法廷で裁判が開かれる事件とは違い、不起訴になった事件は記録の閲覧もできず、情報を得るのが難しいからだ。

 中島忠道 熊本地検の広報担当者に不起訴の理由を尋ねても「回答を差し控える」などと言われることが多い。不起訴の大半は、情状を考慮して訴追を見送る「起訴猶予」で、以前は「被害の程度が軽かった」「被害者と示談した」など、地検が理由を説明していた。だが、ここ数年は起訴猶予かどうかさえ明らかにしなくなった。

 野村拓生 警察が逮捕して発表した容疑者の多くは、実名で報道される。「嫌疑なし」で不起訴になったら、名誉回復のため、捜査機関には一定の説明責任があると思う。

 清水咲彩 事件の被害者ですら、不起訴となった理由は知らされないと聞き、驚いた。交通事故で息子さんを亡くした天草市の女性は「公開の裁判で息子の最期を知りたかった」と悔しがっていた。

 植木 日本の刑事司法制度は、検察官に起訴、不起訴の裁量を認め、犯罪の軽重や情状などで起訴猶予にできる「起訴便宜主義」を採っている。さらに裁判の有罪率は99%に上り、「起訴されたら、ほぼ有罪」というのが実態だ。

 熊川果穂 冤罪[えんざい]事件の教訓を踏まえ、逮捕直後に弁護士が接見する「当番弁護士」制度や、容疑者段階から国選弁護人を付けることができる制度が始まり、起訴前の弁護活動が盛んになった影響もあるようだ。冤罪を防ぐため、取り調べの可視化も導入された。検察が慎重に捜査するようになったとすれば、望ましい変化とも言える。

 植木 不起訴が増えていること自体が問題とは考えていない。ただ、不起訴になった途端、事件の真相が埋もれてしまう状況には強い疑問を感じる。

 上島諒 公開できる情報に限界があることは理解できるが、不起訴の理由が分からなくては市民に不安が残る事件も少なくない。検察はもっと社会と情報を共有してほしい。

 中島 熊本地検では今、次席検事が週2回、各報道機関と5分間だけ個別取材に応じている。出入りが自由で電話取材にも幅広く応じる自治体や中央省庁と比べ、報道対応の間口が極端に狭い。

 熊川 情報公開は民主主義の大前提であり、記者としては譲れない価値観だ。ある日突然、隣人が逮捕され、理由も分からずに戻ってきた。そんな社会が健全と言えるだろうか。

 中島 捜査当局による逮捕、勾留は個人の自由を奪う重大な権力行使だ。起訴、不起訴の処分は捜査の最終結果で、重要な意味を持つ。検察は丁寧に説明するべきだろう。

 植木 当局が誰の自由を制限したかを伝えるためだが、推定無罪の原則がありながら逮捕段階で実名で報じる責任の重さを改めて痛感している。何が正しい司法か、報道か。模索しながら取材を続けたい。=終わり

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