【よく分かる】こうのとりのゆりかご 開設15年の歩み
熊本日日新聞 | 2022年05月10日 07:00

親が育てられない子どもを匿名でも預かる慈恵病院(熊本市西区)の「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」が10日、開設から15年を迎えた。赤ちゃんの命を守る〝最後のとりで〟として、2020年度までに159人の子どもが預けられた。多くが新たな家族の下で、過ごしているという。この15年間で、医療関係者が立ち会わない危険な孤立出産が増加。子どもの出自を知る権利をどう守るかといった、開設当初からの課題も残されている。
ゆりかごについては、有識者でつくる熊本市の専門部会が2~3年ごとに、子どもの預け入れの背景や事情を分析する「中期的検証」をまとめている。5期にわたる報告書の中では、孤立出産の増加が指摘され、ゆりかごへの預け入れを前提としたケースもあった。
預けた子どもの出産場所は、自宅と車中での出産の割合が、第1期の31・4%から第4期の86・2%、第5期でも76・0%へと上昇。報告書は、孤立出産や出産直後の長距離移動が行われているとし、「一連の行動がセットになってきている。ゆりかごが母子の生命を脅かしかねないものとして存在している可能性もある」と警鐘を鳴らした。
ゆりかごをめぐっては、当初から子どもの出自を知る権利をどう保障するかが課題とされてきた。子どもが預けられると、児童相談所は遺留品などから身元の調査に当たる。第5期の検証時点で、預けられた155人のうち、身元が判明しているのは124人(80%)で、不明は31人(20%)だった。
預け入れ後の子どもたちの養育状況を見ると、約5割で特別養子縁組が成立。身元が判明した子どもでは約4割、不明の子どもだと、約7割が特別養子縁組となっていた。身元不明の子どもは養子縁組の成立まで時間がかかる場合もあるという。
市子ども政策課は「できるだけ早い時期から家庭的な環境で養育されることが、子どもの人格形成の上で望ましい」としている。
開設から15年がたち、預けられた子どもたちは多感な時期を迎えつつある。今後は、養親が子どもたちに生い立ちを伝える「真実告知」の在り方が重要なテーマとなる。同課は「一律のルールや制度はなく、全体の状況は把握できていない。子どもの成長に合わせたケースバイケースでの対応が必要で、児童相談所でも引き続き支援していく」と語る。(園田琢磨)

こうのとりのゆりかご
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