「地域は維持されるのか…」 熊本豪雨被害の球磨村神瀬地区 国の治水計画に不安も

熊本日日新聞 | 2021年10月07日 21:23

宅地かさ上げなどに関する国交省の説明を受け、地域別協議会で意見を交わす球磨村神瀬地区の住民ら=9月25日、同村

 昨年7月の豪雨で球磨川が氾濫したため、国土交通省は「宅地かさ上げ」と「輪中堤[わじゅうてい]」による治水計画を各地で示している。甚大な被害を受け、地区再生に向けて議論を続ける熊本県球磨村神瀬地区もその一つ。ただ住民たちは、その対策に不安を感じており、「安全が担保されずに、地域は維持されるのだろうか」との懸念は消えない。

 国交省の計画では、神瀬地区の10集落の住宅ごとに地盤を0~5メートル程度高くする。これらの高さは、昨年の浸水の高さから対策によって低減が見込まれる水位を差し引いて算出。対策には、支流の川辺川に設ける流水型ダムや遊水地などが含まれる。

 「かさ上げの高さが低いのではないか」。9月25日、国交省の説明を受け、球磨村渡で開かれた集会では住民らの不安の声が相次いだ。神瀬の復興を考える地域別協議会で、約120人が参加した。

 神瀬地区の木屋角[きやのすみ]集落で被災し、人吉市のみなし仮設住宅で暮らす上原敦さん(49)は「安全が十分に確保された高さが必要。ダムができなければ、計画は絵に描いた餅になる。この計画では地元に戻れない」と困惑。ダム建設の行方が見通せないことは、住民の大きな不安材料という。

 神瀬地区で全半壊したのは278世帯の約3割。特に被害が大きい中心部で地元に残ることができたのは、約140世帯のうち35世帯前後にとどまる。

 そうした中、神瀬の再生を目指して地区内の住民と地区外で仮住まいしている住民は今も顔を合わせ、つながりを持ち続けている。地元の神照寺の住職、岩崎哲秀さん(47)が昨年8月に設けた「こうのせ再生委員会」だ。

 「ふるさと再生の集い」に名称変更した集会は毎週土曜日、神瀬地区のほか仮設団地のある渡地区、錦町でも開催。災害の恐怖や生活不安、行政への要望を互いに打ち明け、古里への思いを語り合っている。

 「誰かと話すことで前を向ける」と岩崎さん。渡地区の仮設団地と神瀬の自宅を行き来する假屋元さん(77)は当初から参加を続けており、「何が何でも神瀬に帰りたいとの思いが強くなった」と話す。

 一方、神瀬地区から離れる決心をした人もいる。人吉市のみなし仮設住宅で1人暮らしする女性(76)は水害リスクなどを考え、渡地区の高台に整備予定の災害公営住宅を希望。「神瀬が好きなのは変わらない」と言い、移り住んだ後も神瀬に通い続けるつもりだ。

 神瀬地区で宅地かさ上げと輪中堤の工事が完了するのは2026年ごろの見込み。岩崎さんらはかさ上げの高さや範囲について住民の意見をまとめ、村に提出することにしており、「ふるさとの再生には住民の意見が欠かせない。外に出た人も気軽に戻れるような神瀬を取り戻したい」と話した。(小山智史)

公費解体が進み更地が広がる神瀬地区の中心部=10月4日

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