<読者の皆さんへ>民意が求めた緊張感
「自民党が好きなようにできなくなった」-。衆院選後に話した県内の企業経営者(60)の指摘です。第2次安倍内閣から続いた「自民1強」政治が崩れました。加えて言えば、単独で過半数を得た政党はなく、どの党も好き勝手なことができないということです。
熊本県の4選挙区は自民党が全勝しましたが、全国では191議席にとどまり、公示前から65減らしました。投票行動論が専門の遠藤晶久早稲田大教授は「『政治とカネ』の問題に対する有権者の怒りが表れた」とコメントしています。
小選挙区の投票率(全国)は戦後3番目に低い53・85%。半数近い有権者が棄権する中、2009年以来15年ぶりに〝ヤマ〟が動きました。
かつては無党派層が動いて投票率が上がれば、自民に不利に働く傾向がありましたが、今回は投票率が上がらないまま自民が大敗を喫しました。10月29日付朝刊に載せた全国の投開票結果を丹念に見ると、野党候補が一本化できていたならば、自民が負けた可能性のある選挙区が50余りありました。いかに自民への怒りや諦めが大きかったかが分かります。
一方、50増の148議席を確保した立憲民主党は「政権交代こそ最大の政治改革」とアピールしました。4倍の28議席と躍進した国民民主党は「手取りを増やす」と有権者の懐を刺激しました。両党の訴えや公約への期待も、また民意です。
衆院選の投開票から1週間足らず。自民の石破茂総裁は公明党との連立による少数与党での政権継続を表明。政策ごとに国民と連携する「部分連合」に動いています。国民の玉木雄一郎代表は「連立政権には加わらない。欲しいのはポストではなく政策の実現だ」と前のめりです。立民の野田佳彦代表も他党へ協議を呼びかけていますが、出遅れ気味。11日で調整中の特別国会召集と首相指名選挙をにらみ駆け引きが続きます。
ミイラ取りがミイラになって「自公国」になると状況は一変しますが、少数与党であれば、テーマごとに議論を重ねて賛同者を増やし、予算や法律を成立させるというプロセスを踏まざるを得ません。安定多数の上にあぐらをかいて、数の力で少数意見をないがしろにする政治より丁寧で緊張感を持った政治-。怒りや期待など多様な民意から導かれた、今回示された究極の民意ではないでしょうか。
その民意に照らせば、野党第1党の立民を中心に、政策活動費の廃止などオール野党で連携できそうな政策を法案や予算案に落とし込み、議員提案することが、少数与党との緊張感を保つ一つの方法だと思います。野党は、自公政権が政策を組み立て、その賛否を表明するといったこれまでの受け身的な感覚から抜け出す必要があります。
確かにオール野党で議員立法を衆院で通過させても、自公が多数を占める参院で否決されるかもしれません。しかし、来夏の参院選で争点になるでしょう。少なくとも有権者が国会での丁寧な意思決定プロセスに関心を寄せることにつながるはずです。(編集局長 亀井宏二)
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