<読者の皆さんへ>「良い酒は看板必要ない」
石破茂・自民党新総裁は、自身の公式サイトに「雪中松柏[せっちゅうしょうはく]」という言葉を掲げています。七百数十年前の漢詩で、雪の中でも松や柏の葉が色を変えず青々している姿に、時代の流れが変化しても志や主義を固く守るという姿勢を重ねています。
では本人の志や主義とは? 公式サイトには「媚[こ]びず、おもねらず、妥協せず。常に県民に真摯[しんし]であり、国民に誠実でありたい」。確かに時の政権への批判をいとわず、「党内野党」「後ろから鉄砲を撃つ」などと評されました。2016年に地方創生担当相を退いた後は要職から遠ざかっています。
その石破氏が「政治生活の総決算」として臨んだ5度目の総裁選。8月24日の出馬表明から1カ月余り、防衛や防災、地方活性化などに関する持論を展開しました。実現可能性や具体性に疑問符が付く提言もありましたが、「石破節」を存分に発揮していたと思います。しかし、一議員から総裁に立場が一変して早速、独自の〝色〟が薄まっている気がします。
前兆はありました。派閥裏金事件に関係した議員を次期衆院選で公認するか否かについて、総裁選の出馬表明では「徹底的に議論すべきだ」と意気込みました。党内に波紋が広がると即座に「党選対本部で議論して判断する」と軌道修正。議員票獲得への下心がのぞきました。
きょう臨時国会が召集されます。野党は、総裁選での発言を中心にこれまでの言動を分析して論戦に挑む構えです。対する石破氏は、衆院選の日程を「27日投開票」と表明しました。
4日に所信表明演説、代表質問と党首討論を経て9日解散、15日公示の想定です。そうなると、解散まで土日を除き実質1週間。石破氏は「共感と納得の政治」というフレーズをよく使います。裏金事件や関係議員の公認問題、旧統一教会との関係などについて国民の共感、納得を得られるのでしょうか。
首相に指名される前に衆院選の日程を表明すること自体、異例です。全国の選挙管理委員会の準備に配慮した、と説明しました。なぜそこまでして急ぐのでしょう。看板を替えた刷新感の効果が続いている中、都合の悪い問題への野党の追及が深まる前に衆院選を乗り切ろうとしているようにも映ります。
英語で「Good wine needs no bush」ということわざがあります。「良い酒はおのずと売れるので看板を必要としない」といった意味です。看板の効果に頼らず、少なくとも予算委員会を開き、新閣僚と共に石破政権の考え方を堂々と示したらどうでしょう。その上で衆院選に臨む-。能登半島の住民は震災と水害の二重苦にあえいでいます。どう支援するかという議論も後回しにできないはずです。
今の想定では新閣僚が答弁に立つ機会はわずか。総裁選で、予算委員会開催を念頭に「国民に判断材料を提供する必要がある」と強調したのは自身です。悲願がかなった今こそ、妥協せず、県民に真摯であり、国民に誠実であるという姿勢を貫く時ではないかと思います。
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「くまもと昭和100年」を始めました。昭和元(1926)年以降、県内で起きた出来事をたどります。お楽しみください。(編集局長 亀井宏二)
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