マンホールトイレ、熊本県内で整備進む 震災を機に12市町で計536基 自治体の優先度などでばらつきも
災害時に利用する「マンホールトイレ」の整備が熊本県内で進んでいる。2016年の熊本地震をきっかけに整備が加速し、国土交通省の調査によると、22年度末の整備基数は熊本市や益城町、宇城市など12市町で計536基と九州各県で最も多い。ただ、事業の優先度や熊本地震での被害状況を考慮して整備を見合わせる自治体もあり、地域ごとのばらつきは大きい。
マンホールトイレはふたを外して便器を据え、排せつ物を下水道に直接流す仕組み。仮設トイレを配備するより設置がスムーズで、排せつ物のくみ取りも不要といったメリットがあり、国交省はガイドラインなどを示して普及を促している。下水道管路などが一部被災した場合でも一定期間は使用できる形式もある。
熊本地震では、熊本市の指定避難所の白川中(中央区)など4カ所で活用された。同市はこれを機に計画に基づく整備数を増やし、23年度までに小中学校78校で計390基を整備した。24年度は新たに10校に計50基を加える計画で、29年度までに5区役所を含め126カ所630基の整備を目指す。マンホール1基で50~100人の使用を想定している。
地震の被害が深刻だった益城町は、24年度に設置予定の木山中で、計画で定めた小中学校や町総合体育館計8カ所55基の整備が完了する。町下水道課は「トイレを我慢することによる体調の悪化を防ぎ、避難所生活の環境改善に寄与できるようにしたい」とする。
宇城市も熊本地震を受け、小中学校3カ所と防災拠点センター6カ所に計52基を設置した。「熊本地震でトイレが足りない実態が浮かび上がり、災害への備えの必要性を認識した」と市防災消防課。
熊本県下水環境課によると、22年度末までにマンホールトイレの整備に着手しているのは、汚水処理の下水道施設を持つ県と30市町村のうち12市町で、5割に満たない。処理場の更新や下水管の新設などの事業を優先させる自治体があるためだ。
整備基数が比較的少ない自治体は、熊本日日新聞の取材に「熊本地震と同程度の地震であれば避難所のトイレの数は足りる」「仮設トイレや簡易トイレで対応できる」などと説明。いずれも避難所となる施設を新設する際に整備を検討するとした。(上村彩綾)
◆据え付け方法や使い方、防災訓練などで周知 熊本市
2016年の熊本地震では、熊本市が初めてマンホールトイレを活用し、利用者から「洋式なので使いやすい」「段差がなくて安心」との声が聞かれた。地震を受けて県内自治体で設置が進むが、災害時に住民がスムーズに利用できるかどうかも課題。熊本市は地域の防災訓練などを通して、据え付け方法や使い方の周知を図っている。
1日で発生から5カ月となった能登半島地震の被災地では、避難所のトイレで流す水が不足したり、道路の寸断で仮設トイレの配備が遅れたりした。トイレを我慢することで健康を損なう恐れもあり、切実な問題だ。
熊本市は、熊本地震の翌年から毎年実施している震災対処訓練を通じて、マンホールトイレの設置方法を広めている。昨年11月の訓練では39カ所の指定避難所で実施。設置マニュアルの動画を基に地域住民や市職員らが実際に組み立て、手順を確認した。
東区の桜木中で訓練した桜木東校区自治会の川村洋介副会長(76)は「非常時は混乱するので、避難所を担当する市職員だけでなく住民の協力が欠かせない。住民への周知も徹底してほしい」と話す。
設置方法は専用のマンホールのふたを開け、汚水飛散防止シートを敷いて便座を置く。くぎなどで固定した後、テントで便座を覆う。4人で15分程度で設置できるという。必要な器具一式は指定避難所にある防災倉庫に常備している。
市は熊本地震での利用者の声を基に、高齢者や子どもが使いやすいよう、部材を軽量化し座る位置を低くした便座を配備しており、覆いのテントにはトイレットペーパーのフックを取り付けた。
市下水道維持課の日高輝課長は「設置の支援を今後も続けつつ、まずはマンホールトイレの存在を広く知ってもらい、混乱せずに設置できる体制を作ってもらうことが大切」と話す。(上村彩綾)
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