旗を揚げ先頭を走るのがリーダー 「すべからく退を好む者」 出処進退、批判はご自由に 〈細川護熙さんエッセー〉
総理を退任してしばらくたったころ、官邸詰めだった記者の人から当時のことについてインタビューを受けた。そのときの一問一答の記録から。
-いろいろあった細川政権だが、八カ月あまりで幕を閉じたのはなぜか。辞任直前の一九九四年三月でも、内閣支持率五〇%前後。唐突で辛抱が足りないとの声もあった。佐川急便からの借入金問題は当時から乗り切れるとの見方が多く、いまだになぜあのタイミングだったのかという疑問があります。
「うーん、辞めたくなったからということですよ(笑)。そういっちゃえば身も蓋[ふた]もない話ですが、政権の足元が与党内対立で体をなしていないわけだから、あの時点ではもう全く仕事ができる状態ではなかった。毎日、政界再編や政局の話ばかりで、次のテーマと考えていた行財政改革や教育の話どころじゃなかったから。もうこの辺でというのは政治改革が実現したときから考えていた。政策が進められないなら、内閣があと一カ月持とうが、半年持とうが同じこと。だから私にとっては全然、突然ではなくて、どのタイミングで辞めるかというだけのことだったんですね。私も社会党を抱きかかえたまま突っ走れるところまで突っ走ろうと思ったけれど、行き詰まったらそこで辞めるという選択肢しかない。長期に国会が空転したその政治責任を取って辞めるという名分しか、あのときは考え及ばなかった」
-細川流の進退論は独特で分かりにくい。
「権力のポストに就いたら石にかじりついても離したくないという世の中の一般常識からすれば、わがままだとか投げ出したとかいうことになっちゃうんでしょうね。私の進退の原則は簡単なんです。わかりやすく、キンキナトゥスのたとえ話をしましょう。古代ローマが外敵に攻めこまれ全滅の危機にさらされたとき、元老院がティベリス川の向こうで百姓をしていたキンキナトゥスを独裁官に任命し、全軍の指揮権を与えた。彼は期待に応え敵を撃破するが、半年の任期をわずか半月で返上してさっさと元の農民に戻るんですね。実に胸のすく行動でしょ。私も国の指導者として、政治的な懸案を片付けることには執着があるが、政治の課題は永遠です。種蒔[ま]く人、咲き出る花をめでる人…。ポストに居座っていつまでもやろうというような気はさらさらない。というよりも、権力のポストに恋々とすることは私の最も忌み嫌うところですから」
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