【この人に聞く・熊本地震⑨】熊本大名誉教授の徳野貞雄さん 仮設住宅の整備・運営は? 「集落機能、維持する視点を」
長年、農村を中心に地域社会のあり方を研究してきた徳野貞雄・熊本大名誉教授が熊本地震発生後、県内外の研究者や地域づくり団体と被災地再生に向けた支援組織を立ち上げた。新潟県中越地震や東日本大震災でも現地に入り、集落維持の調査や助言に当たった徳野氏に、熊本地震がもたらす影響や復興への課題などを聞いた。(編集委員 毛利聖一)
-被害状況をどう分析していますか。
「熊本地震は『マチ型』と『ムラ型』の複合型震災と言える。熊本市東部や益城町の一部といった『マチ型』では家屋や町の中心部が破壊され、家財の散乱やライフラインの停止で車中泊が急増した。一方で南阿蘇村や西原村の『ムラ型』では田畑の被災や土砂崩れで、世帯・集落の孤立化や消滅の可能性さえ生まれた」
「地域内においても被害の様相がまだらで全体像がつかみにくい。地域による違いを把握した上で、対応法や優先順位を考えるべきだ。マスコミ報道や見た目の被害が目立つ歴史的建造物や一部地区に目が集まり、全体像を俯瞰[ふかん]した議論が乏しいように感じる」
-仮設住宅の建設が本格化していますが、住民がバラバラになり、地域共同体の崩壊も懸念されています。
「被害が大きい地域では、インフラや住宅の復旧にかなりの時間を要すると思われるが、過去の震災を踏まえて言えば、最も大切なことは集落機能を維持する視点を持つことだ。例えば、仮設住宅もできるだけ小学校区単位で整備し、共同体を重視すれば、将来の地域再生につながる」
「今回の地震では住民のよりどころだった神社やお寺も甚大な被害を受けた。檀家[だんか]や氏子も被災し、存続が危ぶまれているところもある。神社の再興は、住民の心や集落の復興に大きな意味を持つ。共同体再生のポイントになるだろう」
-南阿蘇村立野のように集落の維持が危ぶまれるケースもあります。
「集団移転などが浮上するかもしれない。ただ、大切なことは、住民のニーズや生活実態を丁寧に調べて方向性を考えることだ。行政の押しつけは絶対にやってはならない」
-5月初めに被災地支援の組織をつくりましたね。
「九州でグリーンツーリズムに携わってきた地域づくりの主要メンバーや、大学研究者ら約50人が中心となって『熊本・大分 新(震)興ネットワーク』を発足させた。今、熊本にはボランティアを含め、全国から復興のプロや志を持った人が集まっている。そうしたメンバーを含め、中長期的に被災地の復興集落支援制度のようなものができないか考えている。活動を資金面などで後押しする支援組織も県内で呼び掛けて実現させたい」
-復興に必要な視点は何でしょう。
「今の議論をみていると、精神的救済が後回しにされているようにみえる。子どもを含め、多くの人が精神的にも被災した。例えば、被災した親子を一時的に外に連れ出し、リラックスしてもらう『救済ツアー』のようなものを広げられないか。われわれは過去の震災で大切なことを学んだ。それは、経済重視の価値観を転換し、人の復興に目を向けることだ。救済の対策を急ぐ必要がある」
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