欲無ければ一切足る 良寬、吉田兼好、本阿弥光悦に学ぶ生き方 再び断捨離も <細川護熙さんエッセー>
徒然草の中で兼好さんは、質実簡素を心がけ、所有を極力切り詰めることを賢者の条件としてこう述べています。
人は、おのれをつづまやかにし、おごりを退けて、財[たから]持たず、世をむさぼらざらむぞいみじかるべき。昔より賢き人の富めるはまれなり。(第18段)
名利につかはれて、しづかなるいとまなく、一生を苦しむるこそ、おろかなれ。財多ければ身を守るにまどし。害を買ひ、累[わづらひ]をまねくなかだちなり。(第38段)
〈人としては、己の身持ちを簡素にし、贅沢[ぜいたく]をせず、財宝を持たず、この世の利得に執着しないことが立派だといえるのだ。昔から賢い人で富貴な人物は稀だ〉というのです。
また、〈世間の名誉とか利益といったものにあくせくし、静かに落ちついた暇を持たずに一生を苦しみつづけて過ごすのは馬鹿げたことだ。なまじ財産があると、そのために身を守らんとする。そんな心が、害を引き寄せ、煩わしい問題を招くことになるのだ〉ともいっています。
不東庵に居を定めることにしたとき、私も身辺整理をしてものを減らそうと決心しました。おつきあいを減らし、公の場に出ていく機会をとことん減らすのだからと、背広もネクタイも靴も、思いきって整理しました。本もかなり減らしました。
調度類も本当に気に入っている古家具が多少ある程度で、できるだけ余計なものを持たない暮らしをしようと心がけていますが、湯河原にひっこんでからやがて三十年、いろいろと気にかかるものも増えてきたので、このへんで再び思いきった断捨離を断行しなければと考えているところです。
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