「生みのお母さんに会いたい」 養親に反発、涙の告白【ゆりかごの少年たち②】

熊本日日新聞 | 2023年9月17日 08:26

「こうのとりのゆりかご」に預けられた時、中学生(中央)が着ていたベビー服。幼い頃に熊本を訪れて購入したくまモンのコップも大切にしている=7月、関東地方

 「お下がりなのかな。女の子の服みたい」。関東地方に住む中学生マナトさんは、ずっと大切にしているベビー服を広げて眺めた。生後数カ月で慈恵病院(熊本市西区)の「こうのとりのゆりかご」に預けられた時に着ていたものだ。

 2歳でユタカさん、ケイコさん夫妻の里子に迎えられた。夫妻はマナトさんを保護した児童相談所(児相)から事情を聴き、ベビー服を受け取った。「ゆりかごに預けられたと証明するものはこれだけ。慈恵病院に行けば、当時の写真と照合できるかもしれない」とケイコさん。児相の書類には保護の経緯が記載されているはずだが、閲覧はできていない。

 マナトさんが小学生の頃、学校で「自分の生い立ちを知る」という内容の授業があり、誕生直後の写真を持参するよう求められた。だが、手元にあるのは乳児院に入った後の写真だけ。その後しばらく、自分の部屋から出てこなかった。

 小学校高学年になると両親に強く反発し、生活が荒れた。学校に頻繁に遅刻し、部活動をずる休みした。

 自転車を盗もうとし、理由をユタカさんに問われると「(生みの)お母さんに会いたい」と小さな声で言った。「自転車がたくさんあれば、遠い所でも会いに行ける」。胸に秘めた思いを涙ながらに打ち明けるマナトさんに、両親は言葉を失った。

 そんな家族の様子を心配した児相は「里親委託を解除することもできる」と助言した。しかし、マナトさんは、意向を尋ねる児相職員に「ずっと一緒にいた家族と離れたくない」と告げた。3人は特別養子縁組を結び、戸籍上も親子になった。

 気持ちが落ち着いたマナトさんは今、中学生活を楽しみ、父と一緒に剣道の稽古に励んでいる。とりわけ父子の仲はむつまじく、ケイコさんは「私がいると邪魔なのかしらね」と笑う。

 一家は、いずれ慈恵病院や熊本市児相を訪ねるつもりだ。マナトさんを預けに来た親族が病院職員に語った内容などを、3人そろって聞きたいと思っている。

 ゆりかごには全国各地から預け入れがある。身元が判明した場合、子どもは熊本市児相から実親の居住地の児相に「要保護児童」として移管される。

 マナトさんと暮らして10年以上がたつが、熊本の児相からの連絡は一切ないという。市児相が昨年夏に実施した、ゆりかごに預けられた子どもの「真実告知」に関する実態調査の用紙も届かなかった。

 「告知に悩んだ時に相談できる場所や、ゆかりのある場所を訪ねたい時につないでくれる窓口が欲しい」とケイコさんは訴える。

 マナトさんは「生みの母と会って、幸せに暮らしているのか知りたい」と言う。両親は息子の願いをかなえるため、実親探しを全力で応援しようと考えている。「生みの母に会わせることができるまで、私たちの真実告知は終わらない」。ケイコさんは決意を固めている。(清島理紗)=文中仮名

 ◆真実告知 特別養子縁組を結んだ養親や、委託を受けて育てる里親が、子どもに生い立ちを伝えること。就学前から告知するのが望ましいとされ、家族になった経緯や生みの親と離れた事情などを伝える。「こうのとりのゆりかご」に預けられた子どもの養親や里親らを対象にした熊本市児童相談所の調査によると、ゆりかごに預けられたことを告知したのは全体の18%。告知していない人で「検討」「考えたい」としたのは計69%、「検討していない」のは19%だった。

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