田中角栄元首相に辞職を勧める 自民公認めぐる綱引き、「園田裁定」で知事に 日本一づくり運動にアスペクタ、黒川温泉にも注目 <細川護熙さんのあのころ>

熊本日日新聞 2023年6月24日 05:00
1976年7月27日、田中角栄元首相の逮捕を報じる熊日の号外
1976年7月27日、田中角栄元首相の逮捕を報じる熊日の号外

(聞き手・宮下和也)

 -参院議員として所属していた田中派の内紛に嫌気がさしていたというところまで伺いました。田中角栄さんには知事選出馬を相談なさいましたか。

 してません。それは熊本の中の話ですから、とにかく熊本の中で決着がつかないとどうにもならないので。いざ選挙戦になったら、そりゃあ角さんのところに行ったかもしれないけど。そういえば田中さんの話で私、言いましたっけ。辞めた方がいいって言いに行ったってこと。

 -えっ聞いてません。お願いします。

 あのね、ロッキード事件で追い込まれたでしょ。マスメディアでも田中氏は議員辞職すべきだという、ものすごい逆風だったわけですよ。政界の中でも田中派以外は、そういう声がとても強かったですね。で、いよいよ追い込まれた12月の、いつだったかな。

田中派には中央突破論しかない 私はそうじゃないと思います

 -1974年11月に田中内閣が退陣し、76年2月にロッキード事件が発覚します。田中さんはこの年7月27日に外国為替管理法違反と受託収賄の疑いで逮捕されました。8月に保釈され、12月の衆院総選挙には刑事被告人として出馬。世論の逆風の中でトップ当選を果たしました。辞職を勧めたというのはこの時のことですね。

 そうです。もう酒浸りになっておられた時ですよ。私は田中邸に、夜9時頃だったかなあ、プレスの人の目をくぐって、中で待ってたらしばらくして戻ってこられた。「お、何だ」ということでね。

 「いや今日はちょっと改めてお話ししたいことがあって参上しました」「ここはいっぺん退かれて、出直された方がいいんじゃないかと思います」ということを言いました。

 その時に、アメリカ大統領選でケネディに敗れた後、再挑戦して当選を果たしたニクソン大統領や、フランスのドゴール大統領が一時はパリから遠く離れた地に隠せいして、また再登場して第5共和制の初代大統領に就任した例を挙げて「若輩の私が言うのは大変せんえつな話ですが、田中派の中には中央突破論しかない。私はそうじゃないと思います」…とそんなことを言ったら、機嫌良くなかったですね。だけど「おまえの言う意味はわかった」という趣旨のことを言われました。

 私みたいにそんなことを言う人間はほんとにいませんでした。後で聞いたところによると、田中氏の周辺は、私が中曽根(康弘)氏から差し金されたんじゃないか、それで言いに来たんじゃないかと思ったらしい。

 -心から忠告する人はだんだんいなくなるものですか。

 腰巾着みたいな人たちは、甘いことしか言いませんよ。ここは中央突破でいくべきだとか、田中軍団一丸となって、歯向かうようなやつは切り捨てていこうっていう、そのくらいの勢いでしたからね。そんな中でいったん退くべきだなんてことをいうやつは、ちょっと頭がおかしいんじゃないかと思ったんじゃないですかね。秘書連中をはじめとしてみんな。

清正公さんも12年… 知事も「やっぱり長すぎるのは良くない」

 -話を戻して、細川さんが1年後に予想される次の熊本県知事選に名乗りを上げたのは82年2月です。当時は「清正公(せいしょこ)さんも12年」といわれ、熊本の知事は3期12年まで、とする不文律がありました。しかしそれを最初に言い出した寺本広作さんも、寺本さんに代わった沢田一精さんも4期目を目指しました。

 いやあ、これは押したり引いたり、まあ大変でした。権力というのはみんな、好きな人が多いってことでしょうね。清正公さんというより、3期12年でも長い、やっぱり長すぎるのは良くないって、そういう気持ちですよね。

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