【連鎖の衝撃 生命編⑫】学生村の東海大生 「生かされた理由」探す


南阿蘇村黒川。約800人が暮らしていた東海大阿蘇キャンパス近くの「学生村」は、静まり返っていた。
押しつぶされたアパートや寮。目前にそびえる山の斜面には、阿蘇大橋をのみ込んだ大規模な土砂崩れの跡が生々しく残る。がれきの中にあった時計の多くは、4月16日の午前1時25分で止まっていた。
◇ ◇
同大農学部3年の松村知毅[ともき]さん(20)は入学と同時に美里町の実家を離れ、学生村に移った。本震が襲った16日未明は、14世帯が入るアパート2階の部屋に2人の友人といた。
ちょうどベッドで寝ようとしていた時だった。ゴボゴボ…。気味の悪い音が聞こえた直後、ドーンという地鳴りが響くと、体ごと床に投げ出された。
何が何だか分からず、無我夢中で窓から外に飛び出し、ベランダから車をつたって駐車場に逃げた。「助けて!」。ガスの臭いが充満する中、友人らの叫び声が聞こえた。
アパートの前に、難を逃れた学生が続々と集まった。「絶対に助け出す」。車を1カ所に集めてヘッドライトでアパートを照らすと、暗闇に1階部分がつぶれたアパートが浮かび上がった。
がれきの中に友人のスマートフォンの明かりが見えた。しかし、埋め尽くしたがれきと余震で思うように救出できない。ベランダの鉄製の板を蹴破り、ベッドが支えた数十センチの隙間から友人2人を助け出した。
午前4時すぎ、阿蘇広域消防本部の約40人が到着した。路面が崩壊していたため、隊員らは途中で車を降り、チェーンソーやカッターなどを担いできた。がれきを動かすと「痛い」と声が漏れた。「反応があることは生きているということ。希望が持てた」。隊員の倉岡昂輝さん(28)は振り返る。
夜が明けると、雲一つない空の下に「戦争の爪痕のような風景」が広がっていた。すぐ近くのアパートでは、同大4年脇志朋弥さん(21)の懸命の捜索が続いていた。
「おーい」。返事が無いまま、時間が過ぎていく。そして午前8時すぎ、発見された脇さんはすでに心肺停止の状態だった。松村さんらは、ぼうぜんと見守るしかなかった。
「責任感が強く、人望の厚い学生さんだった。がれきでふさがれて助けに入ることもできなかった。親御さんのことを思うと申し訳なくて…」。脇さんのアパートの大家だった渡辺武さん(69)は肩を震わせた。
◇ ◇
5月上旬。松村さんの姿は学生村にあった。実家から南阿蘇村に戻り、テントや車に泊まりながら、がれきなどの片付けを続けている。
学生村では、脇さんをはじめ、3人の若い命が奪われた。大学が元通りの姿を取り戻せるのか。見当もつかない。「それでも自分が生かされた理由は何か」。松村さんはそう考えるうち、放牧の牛や、南阿蘇の自然がいとおしくなった。
「周囲に支えられていたことに気付きました。亡くなった仲間たちの分まで、震災前の日常を取り戻したい」(藤山裕作)
◇ ◇
49人が犠牲となった熊本地震。震度7が短期間に2度も襲うという事態の中で、一時帰宅して命を落とした人、避難できた人、救われた人…。生死を分けたのは、紙一重の差でしかなかった。=「生命編」おわり
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
熊本地震で被災の熊本競輪場、2026年1月にグランドオープン 熊本市方針、駐車場整備の完了後
熊本日日新聞 -
【熊日30キロロード】熊本地震の被災を機に競技開始…32歳塚本(肥後銀行)が〝魂〟の完走 18位で敢闘賞
熊本日日新聞 -
天ぷら、スイーツ…「芋」づくし 産地の益城町で初のフェス
熊本日日新聞 -
地震で崩れた熊本城石垣、修復の担い手育成を 造園職人向けに研修会
熊本日日新聞 -
熊本地震で被災の油彩画、修復報告展 御船町出身・故田中憲一さんの18点 熊本県立美術館分館
熊本日日新聞 -
熊本城復旧などの進捗を確認 市歴史まちづくり協議会
熊本日日新聞 -
熊本市の魅力、海外メディアにアピール 東京・日本外国特派員協会で「熊本ナイト」 熊本城の復興や半導体集積
熊本日日新聞 -
熊本地震で被災…益城町が能登支える「芋フェス」 11日、NPOなど企画 能登の特産品販売、トークショーも
熊本日日新聞 -
「安全な車中泊」普及へ、熊本で産学官連携 避難者の実態把握、情報提供…双方向のアプリ開発へ
熊本日日新聞 -
石之室古墳、石棺修復へ作業場設置 熊本市の塚原古墳群 2027年度から復旧工事
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
コロッケ「ものまね道」 わたしを語る
ものまね芸人・コロッケさん
熊本市出身。早回しの歌に乗せた形態模写やデフォルメの効いた顔まねでデビューして45年。声帯模写も身に付けてコンサートや座長公演、ドラマなど活躍の場は限りなく、「五木ロボ」といった唯一無二の芸を世に送り続ける“ものまね界のレジェンド”です。その芸の奥義と半生を「ものまね道」と題して語ります。