【連鎖の衝撃 建物編②】 耐震化「やっておけば」 県内住宅の3割弱が新基準満たさず 重い費用負担が壁に 

熊本日日新聞 2016年5月17日 00:00
熊本地震では家屋が大きく崩れたり、傾いたりしたが、もちこたえた住宅もあった=13日、益城町(馬場正広)
熊本地震では家屋が大きく崩れたり、傾いたりしたが、もちこたえた住宅もあった=13日、益城町(馬場正広)
【連鎖の衝撃 建物編②】 耐震化「やっておけば」 県内住宅の3割弱が新基準満たさず 重い費用負担が壁に 

 「こうして実際に改修が役立つ日が来るとは…」。益城町の自営業の男性(47)は、2度の震度7を受けて倒れなかった木造2階建ての自宅を見やり、複雑な表情を浮かべた。

 近所には大きく崩れたり、傾いたりした住宅がある。男性の家も壁などが崩れたが、半壊程度で持ちこたえた。2013年に増改築した際、費用約200万円をかけて耐震改修を施していた。

 きっかけは、11年の東日本大震災だった。上下がひっくり返った建物を報道で見て、地震は怖いと思った。現在築39年の自宅は、1981年の新耐震基準より前の建築だった。耐震改修で、壁を補強する筋交いを2倍にし、屋根材を瓦から軽いスレートに張り替えた。

 4月14日夜の前震は自宅で食事中に起き、16日の本震の時は車中に避難していた。家族4人とも無事だったが、今も町の体育館で避難生活を続ける。「家が倒れなかったのは不幸中の幸いだが、使えるかどうか分からない」という。

 県によると、2008年時点の県内住宅数は約66万5千戸。38%が81年以前に建っていて、うち28%が同年改正の新耐震基準を満たしていなかった。

 古い建物の耐震改修には、公的補助がある。国土交通省などによると通常100万~200万円の改修費用がかかるが、そのうち上限60万円(県内実績)ほどを補助する仕組みだ。

 制度は自治体ごとの実施で、福岡県や宮崎県では全市町村が一戸建て住宅を対象に補助。全国でも8割の市町村が導入している。だが、熊本県内(45市町村)では4割以下の16市町しか設けていない。益城町にも制度がなく、耐震化は進んでいなかった。制度のある熊本市でも昨年度の利用実績は15件だった。

 県の耐震化目標は15年度末に90%だったが、最新の13年推計で76%にとどまり、全国平均の82%を下回っている。公的補助はあっても補助率がそれほど高くなく、高齢者の世帯にとって費用負担が重いことも、ネックになっているという。

 前震後に益城町に入った大分大の田中圭准教授(木質構造学)は、本震後に町の風景が一変したことに驚いた。前震に持ちこたえていた古い住宅の多くが、本震で倒壊してしまったからだ。田中准教授は「81年以前に建てられた住宅の耐震性強化を急ぐ必要がある」と強調する。

 木造2階建ての自宅が全壊した同町惣領の原田将和さん(66)は「耐震化なんて考えたこともなかった。やっておけば良かったと今さら言っても後の祭りだが」と唇をかむ。

 県立大環境共生学部の北原昭男教授は「今回の地震で県民の意識も高まったはず。補助制度の促進とともに、家庭でもできる簡単な補強を進める必要がある」としている。(馬場正広、山口尚久)

 ●補助自治体、県内は4割 全国平均下回る

 県内で一戸建て住宅の耐震改修を補助している自治体は45市町村のうち4割以下の計16市町にとどまり、全国平均の8割を大きく下回っている。九州でも福岡や宮崎県などは、過去の地震や南海トラフ巨大地震への危機感を背景に、取り組みが進んでいる。

 熊本地震以降、九州内の他県では、住宅の耐震診断や改修についての問い合わせが増えているという。

 阪神大震災を踏まえ制定された耐震改修促進法に基づき、国は耐震改修を促進。補助制度は診断と改修の2段階で、耐震基準を下回っていた場合、改修費用の一部を補助する。

 国は補助制度のある市町村に対し、原則として改修額の11・5%を助成。九州では福岡、長崎、大分、宮崎県の全市町が診断・改修を補助。熊本県内で改修を補助しているのは熊本市や甲佐町など16市町で、実施率は36%にとどまる。

 福岡では、2005年の福岡西方沖地震などを契機に市町村での導入が進み、県も目視で耐震度をチェックする簡易診断の費用を補助している。宮崎県建築住宅課は「県内には旧耐震基準の古い建物が多い。南海トラフ巨大地震などへの備えから、住宅の耐震化は急務」としている。

 熊本県土木部は「低コストの改修工法の普及を図るほか、市町村と連携し、助成制度の拡充に努めたい」としている。(馬場正広)

RECOMMEND

あなたにおすすめ
Recommend by Aritsugi Lab.

KUMANICHI レコメンドについて

「KUMANICHI レコメンド」は、熊本大学大学院の有次正義教授の研究室(以下、熊大有次研)が研究・開発中の記事推薦システムです。単語の類似性だけでなく、文脈の言葉の使われ方などから、より人間の思考に近いメカニズムのシステムを目指しています。

熊本日日新聞社はシステムの検証の場として熊日電子版を提供しています。本システムは研究中のため、関係のない記事が掲出されこともあります。あらかじめご了承ください。リンク先はすべて熊日電子版内のコンテンツです。

本システムは「匿名加工情報」を活用して開発されており、あなたの興味・関心を推測してコンテンツを提示しています。匿名加工情報は、氏名や住所などを削除し、ご本人が特定されないよう法令で定める基準に従い加工した情報です。詳しくは 「匿名加工情報の公表について」のページ をご覧ください。

閉じる
注目コンテンツ
熊本地震