【連鎖の衝撃 建物編②】 耐震化「やっておけば」 県内住宅の3割弱が新基準満たさず 重い費用負担が壁に
「こうして実際に改修が役立つ日が来るとは…」。益城町の自営業の男性(47)は、2度の震度7を受けて倒れなかった木造2階建ての自宅を見やり、複雑な表情を浮かべた。
近所には大きく崩れたり、傾いたりした住宅がある。男性の家も壁などが崩れたが、半壊程度で持ちこたえた。2013年に増改築した際、費用約200万円をかけて耐震改修を施していた。
きっかけは、11年の東日本大震災だった。上下がひっくり返った建物を報道で見て、地震は怖いと思った。現在築39年の自宅は、1981年の新耐震基準より前の建築だった。耐震改修で、壁を補強する筋交いを2倍にし、屋根材を瓦から軽いスレートに張り替えた。
4月14日夜の前震は自宅で食事中に起き、16日の本震の時は車中に避難していた。家族4人とも無事だったが、今も町の体育館で避難生活を続ける。「家が倒れなかったのは不幸中の幸いだが、使えるかどうか分からない」という。
県によると、2008年時点の県内住宅数は約66万5千戸。38%が81年以前に建っていて、うち28%が同年改正の新耐震基準を満たしていなかった。
古い建物の耐震改修には、公的補助がある。国土交通省などによると通常100万~200万円の改修費用がかかるが、そのうち上限60万円(県内実績)ほどを補助する仕組みだ。
制度は自治体ごとの実施で、福岡県や宮崎県では全市町村が一戸建て住宅を対象に補助。全国でも8割の市町村が導入している。だが、熊本県内(45市町村)では4割以下の16市町しか設けていない。益城町にも制度がなく、耐震化は進んでいなかった。制度のある熊本市でも昨年度の利用実績は15件だった。
県の耐震化目標は15年度末に90%だったが、最新の13年推計で76%にとどまり、全国平均の82%を下回っている。公的補助はあっても補助率がそれほど高くなく、高齢者の世帯にとって費用負担が重いことも、ネックになっているという。
前震後に益城町に入った大分大の田中圭准教授(木質構造学)は、本震後に町の風景が一変したことに驚いた。前震に持ちこたえていた古い住宅の多くが、本震で倒壊してしまったからだ。田中准教授は「81年以前に建てられた住宅の耐震性強化を急ぐ必要がある」と強調する。
木造2階建ての自宅が全壊した同町惣領の原田将和さん(66)は「耐震化なんて考えたこともなかった。やっておけば良かったと今さら言っても後の祭りだが」と唇をかむ。
県立大環境共生学部の北原昭男教授は「今回の地震で県民の意識も高まったはず。補助制度の促進とともに、家庭でもできる簡単な補強を進める必要がある」としている。(馬場正広、山口尚久)
●補助自治体、県内は4割 全国平均下回る
県内で一戸建て住宅の耐震改修を補助している自治体は45市町村のうち4割以下の計16市町にとどまり、全国平均の8割を大きく下回っている。九州でも福岡や宮崎県などは、過去の地震や南海トラフ巨大地震への危機感を背景に、取り組みが進んでいる。
熊本地震以降、九州内の他県では、住宅の耐震診断や改修についての問い合わせが増えているという。
阪神大震災を踏まえ制定された耐震改修促進法に基づき、国は耐震改修を促進。補助制度は診断と改修の2段階で、耐震基準を下回っていた場合、改修費用の一部を補助する。
国は補助制度のある市町村に対し、原則として改修額の11・5%を助成。九州では福岡、長崎、大分、宮崎県の全市町が診断・改修を補助。熊本県内で改修を補助しているのは熊本市や甲佐町など16市町で、実施率は36%にとどまる。
福岡では、2005年の福岡西方沖地震などを契機に市町村での導入が進み、県も目視で耐震度をチェックする簡易診断の費用を補助している。宮崎県建築住宅課は「県内には旧耐震基準の古い建物が多い。南海トラフ巨大地震などへの備えから、住宅の耐震化は急務」としている。
熊本県土木部は「低コストの改修工法の普及を図るほか、市町村と連携し、助成制度の拡充に努めたい」としている。(馬場正広)
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