【連鎖の衝撃 生命編①】帰宅した一家㊤ 迫る天井…死を覚悟
![母の島崎京子さんが亡くなった自宅前で手を合わせる長男の浩さん=9日、益城町福原(岩崎健示)](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2023-04/IP160509TAN000197000_03.jpg?itok=HEexjilQ)
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毎朝、目が覚めると、地震前のありふれた光景を思い出す。
「パン食べんかい」。朝食を勧める母の声。仕事でどんなに遅くなっても帰りを待ってくれていた。しかし、その日常はもう二度と戻ってこない。
「あの地震が来るまではあんなに元気だったのに、冷たくなって…。まだ信じられんです」。益城町福原の会社員島崎浩さん(56)は、母京子さん(79)の死を、1カ月がたとうとする今も受け止められないでいる。
◇ ◇
近くに木山川が流れる静かな農村地帯。浩さんは、その集落の一角にあった築45年の木造2階建ての家で、農業を営んできた京子さんと父敏幸さん(81)の3人で暮らしていた。
4月14日午後9時26分。「ドーン」という地鳴り音と同時に経験したことのない激しい揺れに襲われ、電気が消えた。何が起きたのかを理解するまでにしばらく時間を要した。
幸い、家族にけがはなく、家屋の被害もほとんどなかった。心配して連絡してきた親戚に外にいるよう促され、その夜は庭に止めていた乗用車の中で3人一緒に眠った。
一夜が明け、膝の悪い敏幸さんは、痛みに耐えきれず、自宅に戻った。浩さんは日中、近所の手を借りて瓦が落ちた屋根にブルーシートをかけるなど、片付けに追われた。余震は落ち着きつつあるように感じた。実際、日本気象協会によると、15日午前に24回を数えた震度3以上の余震は、午後には7回に減っていた。
暗くなり始めたころ、水道と電気が復旧。疲れ切った両親は家で休みたそうに見えた。「風呂に入って疲れをとろうと、家で過ごすことを決めた」。まさか前日の激震が「本震」の前触れだとは思いもしなかった。
敏幸さんは1階奥の寝室で、京子さんは玄関に近い部屋に向かった。「地震があったら怖かけん」。それが、浩さんが聞いた母の最後の言葉になった。
日付が変わるころ、風呂に入った浩さんも、1階の部屋で床に就いた。母が見えるよう部屋を隔てるふすまを開け、いつもより北側に1メートルほど布団をずらした。この行為が結果的に自身の命をつなぐことになる。
◇ ◇
午前1時25分。前夜よりさらに激しい揺れで、浩さんはハッと目を覚ました。周りは真っ暗闇。「バキッ」。大きな何かが目の前に迫る気配がして、思わず目をつぶった。
「出られん。何も見えん」。その時、父敏幸さんの叫び声が聞こえた。しかし、身動きが取れない。「おれも出られん。待っとって」。返事するだけで精いっぱいだった。
「おふくろ、おふくろ、大丈夫ねっ」。返事はない。「ミシッ、ミシッ」。柱のきしむ音が響いた。「気を失っているだけ。きっと大丈夫」。恐怖で速まる鼓動を感じつつ、自分に言い聞かせた。
とにかく明かりがほしい。しかし、携帯電話に手が届かない。普段は外して寝る時計をしていることに気付き、時計のライトを照らすと、1メートル先に落ちている天井が見えた。布団をずらした場所だった。
午前1時45分。再び震度6の激しい揺れ。「バキ、バキ、バキッ」。天井が迫る。「もう駄目だ…」。浩さんは死を覚悟した。(後藤幸樹)
◇ ◇
県内に甚大な被害を与えた「熊本地震」から14日で1カ月。家屋倒壊や土砂崩れなどで49人の貴い命が失われ、依然として1人が行方不明のままだ。最大震度7の揺れが連続して襲い、千回を超える余震が続く“連鎖”は、犠牲者の拡大につながった。失われた命、救われた命…。連載「熊本地震 連鎖の衝撃 生命編」は、引き裂かれた生死の瞬間をたどる。
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