児童虐待死減少に評価 熊本市専門部会長の西南学院大教授・安部計彦氏に聞く
親が育てられない赤ちゃんを匿名でも預かる慈恵病院(熊本市)の「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」は開設15年。運用状況を検証する市専門部会長に昨年就任した安部計彦西南学院大教授(社会福祉学)に、ゆりかごの現状や課題について聞いた。安部専門部会長は「虐待死を減らす取り組みの一つとして機能している」と評価する一方で、「病院はもっと福祉と連携してほしい」と、預けた親への支援体制を強化するよう求めた。(清島理紗、林田賢一郎)
-ゆりかごの15年をどう振り返りますか。
「国内の児童虐待で亡くなる子どものうち、生まれてすぐの0日児が最も多い。ほとんどの母親が妊娠を誰にも告げず、自宅で出産している。ゆりかごは、0日死亡を減らす取り組みの一つとして機能している。2020年度までに預けられた159人は、匿名だからこそ救えた命だ」
-これまでの専門部会の検証報告書では、匿名ゆえの安易な預け入れがあったと指摘しています。
「安易な預け入れか、ゆりかごがあるから子どもを殺さずに済んだのか、どちらとも言えない。個人的には、子どもに生きて幸せになってほしいと考えた上での行動だと思う。ゆりかごは、母親が自宅出産や出産直後の長距離移動といった危険を冒してまで、求めているものだ。各地域に受け皿をつくるためにも、都道府県に1カ所ずつ設置した方がいい」
-匿名では支援につながりにくいのでは。
「匿名にはメリットとデメリットがある。親が身元を明かさないことで子どもの命が救われる。ただ、孤立した親自身を助けられないというジレンマもある。慈恵病院には、もっと福祉と連携してほしい。ソーシャルワーカーを活用し、生活苦や障害、社会的孤立などで困っている親をサポートする上で、ほかの福祉機関とネットワークを作ってほしい。匿名のままでも、親の状況を支援者同士で話し合えば、その人に合わせたオーダーメードの支援が可能になる」
「ゆりかごには、きょうだいを預けた例が複数ある。上の子の時に行政がきちんとサポートしていないから、下の子も預け入れる。けしからんと責めるのではなく、親が安心して子育てができる体制を、社会がつくらなければならない」
-預けられた子どもの2割は身元不明のままです。
「最も大切なのは子どもの命。続いて子どもと親の幸せ、その後が出自の問題だと思う。身元が分からない子どもにも、『お母さんは誰か分からないが、あなたの命と幸せを考えて預けたんだ』と伝えてほしい」
-国や熊本市に求めることは。
「ゆりかごが広がらないのは、運営費などの経済的リスクと法的バックアップがないのが要因。熊本市には、困難を抱える妊婦を支援する病院や児童福祉施設といった有効な社会資源がほかにもある。ゆりかごや内密出産だけでなく、それぞれの持ち味を生かした支援体制を議論すべきだ」
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