イチョウの黄葉、県庁と電車通りでなぜ違う? 日当たり?手入れ?個体差?
熊本県内で紅葉、黄葉[こうよう]が深まる中、熊本市を彩る市木のイチョウについて「県庁プロムナードと、近くの電車通り(県道熊本高森線)で黄葉[こうよう]に差がある」と、SNSこちら編集局(S編)に疑問が寄せられた。現地を訪れると、確かに一様に黄色い県庁とは違い、電車通りの黄葉はまばら。その差が生まれる要因を調べた。
投稿したのは熊本市中央区出水の自営業女性(49)。東区に通勤していて、この2カ所のイチョウの様子を見ているという。「毎年、県庁の黄葉は本当にきれい。でも電車通りでは緑のまま枯れるイチョウも見かける」と首をかしげる。
快晴の11月30日、まずは県庁を訪ねた。プロムナードに植えられた54本のイチョウのうち約9割が黄色く染まっていた。管理する財産経営課の担当者は「プロムナードでも黄葉のばらつきはある。今年は東側が遅い」という。
一方の電車通り。神水交差点から辛島公園にかけ452本が並ぶ。水前寺公園電停前から見ると、視界に入ったイチョウの8~9割はまだ緑色だった。県庁との距離はわずか約1キロ。確かに女性の指摘も肯ける。
まずは黄葉の仕組みを、熊本博物館の山口瑞貴学芸員(37)に聞いた。イチョウは緑の色素クロロフィルと黄色のカロテノイドがあり、気温が低くなるとクロロフィルが分解されて、カロテノイドが目立ち、黄色に染まるという。
イチョウは1種類しかなく、サクラの開花時期のように種類による違い、ではなさそうだ。知り合いの理科の教師にも相談し、「日当たりの差では」と仮説を立ててみた。確かにビルに囲まれた電車通りに比べ、県庁は日光を遮る建物が少ない。ただ、電車通りで同じように日が当たっている木でも黄葉には差がある。山口学芸員は「写真で見る限り、日照条件に大きな差はない。個体差や老化の進み具合などが複合的に影響している可能性はある」と言う。
県と熊本市によると、樹齢はどちらも不明。手入れは県庁が数年に一度、熊本市は約3年に一度剪定[せんてい]していて、大きな差はなかった。
これという答えが見つからない中、「夜間の気温差の可能性がある」と教えてくれたのは、樹木を研究する森林総合研究所九州支所(中央区)の勝木俊雄さん(57)だ。
勝木さんによると、広い空間で地面が緑地であれば色づきは早く、狭い空間でコンクリートに覆われたところでは黄葉が遅いことが知られているという。「ビルに挟まれた電車通りに比べると、県庁プロムナードは空間が開けている。夜間の放射冷却が進んで冷え込むので、より黄葉が進みやすいのかもしれません」と説明する。
12月4日の本紙朝刊1面には黄金色に染まる県庁の様子が掲載された。その5日後。寒さは増したが、電車通りにはまだ緑のイチョウが目に入った。(石井颯悟)
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