102本の赤い糸、陸と島結ぶ 津奈木町「海渡り」 祭りをアートに再構築
アート制作に参加した人たちの思いの詰まった102本の赤い糸が陸と島を結んだ。不知火海に面する津奈木町赤崎地区。ほそぼそ続いてきた弁天様のお祭りをアートに再構築した催し「海渡り」が9月28、29日、旧赤崎小であった。海とともに暮らしてきた文化をつなぐため、熊本県外の若者らも参加した。
つなぎ美術館の依頼で、アーティストの五十嵐靖晃さん(46)=千葉=が構想を練った。2018年から地区で住民の話を聞き、21年に初開催。4回目の今回は、快晴の下で始まった。
約100メートル沖にある弁天島は、干潮時には歩いて渡れる。「海渡り」では、普段は鳥居が建つ場所に、糸をつなぐ柱を設置。自然を傷めないように同じ場所にしたという。参加者はお参り後、鳥居を解体。鳥居は21年に地元大工らの協力で新調しており、容易に分解できる仕様にしている。
タチウオ漁で使う糸巻き機を手にして島まで歩いた参加者は、自身の名前と、気持ちや願い事を大きな声で叫び、島にいる結び手に糸を渡した。2日間で102本。最後の1本は、近くのミカン農家松田テル子さん(86)が引いた。松田さんは「弁天様のお祭り」を長年1人で続け、旧暦9月26日に島のほこらで地域の安寧を祈ってきた。足腰が弱くなり、昨年から島の急斜面を上れなくなった。
「あと10歳若くしてください」。松田さんが糸を引くと、青い空と海の間に赤い糸が放射状に浮かび上がった。拍手と歓声で沸き、涙を流す若者もいた。松田さんは「五十嵐さんと出会って、本当にありがたい。神様の喜んどなさる」。
初日は婦人会がおにぎりや豚汁を振る舞い、子どもたちがビナ(貝)を拾ったり、海で泳いだりする姿も見られた。
地域おこし協力隊のインターン制度を利用して訪れた県外の大学生も14人参加し、台湾中山大の学生5人の姿もあった。4年の女子学生は「外部の私がやっていいのかという思いもあった。地元の方が温かく迎えてくれてうれしかった。みんなが参加できるアート作品で良かった」。見届けた五十嵐さんも「アートは懐が深く、生きる力を育む。新たな〝海の日〟として続けたい」と胸を張った。
「海渡り」は26日まで展示され、27日に糸上げ、28日には「弁天様のお祭り」を開く。(伊藤恩希)
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