〝厄介者〟の未利用魚を食卓に 藻場を荒らす「イスズミ」、冷凍パック商品に使用 天草市で地元漁協と企業が連携
稚魚のすみかとなる藻場を食い荒らす魚「イスズミ」を食材として活用する取り組みが今夏、天草市で始まった。独特の磯臭さから食卓に並ぶことのなかった未利用魚を地元漁協と企業が連携し、鮮度を保ったまま出荷できる態勢を整えた。関係者は「藻場を守るため、持続的な取り組みにしたい」と期待を寄せる。
イスズミは暖かい海域に生息し、県内では天草地域などに分布する。体重の4~5%程度の海藻を食べ、大きい個体は約5キロに育つ。海藻類がなくなる「磯焼け」の原因の一つとされている。牛深地域では定置網にかかることが多いが、食用に向かず商品価値が低いため、これまではほとんど水揚げされなかった。
8月初旬、天草漁協牛深総合支所のいけすでは大小のイスズミ9匹が泳ぎ回っていた。7月から流通を前提とした漁獲を始め、1カ月間で約300匹、440キロを水揚げした。総合支所企画管理課の担当者は「利用価値が上がれば水揚げは自然と増える」と見通す。
環境省の調べでは、天草地域の藻場の面積は1988~93年の3400ヘクタールから、93~99年には2500ヘクタールに減少。近年は海水温の上昇で藻を食べる生物の食欲が旺盛になり、イスズミなどの駆除が課題となっていた。
漁獲されたイスズミは牛深総合支所が集荷し、近くに水産加工工場を構える海神貿易(本社・東京)が買い取る。同社は三枚おろしにした切り身を冷凍し、ミールキットの製造販売を手がけるベンナーズ(福岡市)に売り渡す。
イスズミは締めるとすぐに臭みが強まるため、これまで遠方への輸送は難しかった。漁協近くに立地する海神貿易が冷凍加工することで、その課題を克服した。同社九州事業部の五十嵐広之管理課長は「うろこが硬く加工しにくいのが難点だが、漁獲量を増やして藻場を守ることで牛深の水産業の振興に貢献したい」と協力の理由を語る。
ベンナーズは、調理済みの未利用魚を冷凍パックにしたサブスクリプション(定額利用)商品にイスズミを使用。醬油[しょうゆ]漬けやカルパッチョなど10種類ほどの味付けで販売する。担当者は「牛深産は高品質でおいしく仕上がる。良い商品を作って食卓に広げたい」と語る。
商品の安定供給には、まず漁師に「売れる魚」と認識される必要がある。天草市は本年度から、藻場の保全を目的にイスズミ1匹当たり100~200円の補助金を出して水揚げを促している。
26年度まで3年間続ける方針で、天草市水産振興課は「将来的には補助がなくてもイスズミが流通し、漁師の収入源になるのが望ましい」と言う。
市と漁協、企業を結び付けた農林中央金庫(農林中金)熊本支店食農グループJFマリンバンク班の泉俊彦次長は「官民が連携した好事例で、藻場保全による二酸化炭素(CO2)の排出削減にもつながる。地場産業振興のモデルケースになるといい」と期待する。(馬場正広)
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