〝厄介者〟の未利用魚を食卓に 藻場を荒らす「イスズミ」、冷凍パック商品に使用 天草市で地元漁協と企業が連携

熊本日日新聞 2024年8月25日 22:30
藻場を荒らす「イスズミ」を締める海神貿易の担当者。三枚おろしにして冷凍する=7日、天草市
藻場を荒らす「イスズミ」を締める海神貿易の担当者。三枚おろしにして冷凍する=7日、天草市

 稚魚のすみかとなる藻場を食い荒らす魚「イスズミ」を食材として活用する取り組みが今夏、天草市で始まった。独特の磯臭さから食卓に並ぶことのなかった未利用魚を地元漁協と企業が連携し、鮮度を保ったまま出荷できる態勢を整えた。関係者は「藻場を守るため、持続的な取り組みにしたい」と期待を寄せる。

 イスズミは暖かい海域に生息し、県内では天草地域などに分布する。体重の4~5%程度の海藻を食べ、大きい個体は約5キロに育つ。海藻類がなくなる「磯焼け」の原因の一つとされている。牛深地域では定置網にかかることが多いが、食用に向かず商品価値が低いため、これまではほとんど水揚げされなかった。

 8月初旬、天草漁協牛深総合支所のいけすでは大小のイスズミ9匹が泳ぎ回っていた。7月から流通を前提とした漁獲を始め、1カ月間で約300匹、440キロを水揚げした。総合支所企画管理課の担当者は「利用価値が上がれば水揚げは自然と増える」と見通す。

 環境省の調べでは、天草地域の藻場の面積は1988~93年の3400ヘクタールから、93~99年には2500ヘクタールに減少。近年は海水温の上昇で藻を食べる生物の食欲が旺盛になり、イスズミなどの駆除が課題となっていた。

天草市牛深町で水揚げされたイスズミ。処理直前までいけすに入れておく=7日、天草市
天草市牛深町で水揚げされたイスズミ。処理直前までいけすに入れておく=7日、天草市

 漁獲されたイスズミは牛深総合支所が集荷し、近くに水産加工工場を構える海神貿易(本社・東京)が買い取る。同社は三枚おろしにした切り身を冷凍し、ミールキットの製造販売を手がけるベンナーズ(福岡市)に売り渡す。

 イスズミは締めるとすぐに臭みが強まるため、これまで遠方への輸送は難しかった。漁協近くに立地する海神貿易が冷凍加工することで、その課題を克服した。同社九州事業部の五十嵐広之管理課長は「うろこが硬く加工しにくいのが難点だが、漁獲量を増やして藻場を守ることで牛深の水産業の振興に貢献したい」と協力の理由を語る。

未利用魚を使ったミールキット。7月から牛深産のイスズミも食材として活用している(ベンナーズ提供)
未利用魚を使ったミールキット。7月から牛深産のイスズミも食材として活用している(ベンナーズ提供)

 ベンナーズは、調理済みの未利用魚を冷凍パックにしたサブスクリプション(定額利用)商品にイスズミを使用。醬油[しょうゆ]漬けやカルパッチョなど10種類ほどの味付けで販売する。担当者は「牛深産は高品質でおいしく仕上がる。良い商品を作って食卓に広げたい」と語る。

 商品の安定供給には、まず漁師に「売れる魚」と認識される必要がある。天草市は本年度から、藻場の保全を目的にイスズミ1匹当たり100~200円の補助金を出して水揚げを促している。

 26年度まで3年間続ける方針で、天草市水産振興課は「将来的には補助がなくてもイスズミが流通し、漁師の収入源になるのが望ましい」と言う。

 市と漁協、企業を結び付けた農林中央金庫(農林中金)熊本支店食農グループJFマリンバンク班の泉俊彦次長は「官民が連携した好事例で、藻場保全による二酸化炭素(CO2)の排出削減にもつながる。地場産業振興のモデルケースになるといい」と期待する。(馬場正広)

RECOMMEND

あなたにおすすめ
Recommend by Aritsugi Lab.

KUMANICHI レコメンドについて

「KUMANICHI レコメンド」は、熊本大学大学院の有次正義教授の研究室(以下、熊大有次研)が研究・開発中の記事推薦システムです。単語の類似性だけでなく、文脈の言葉の使われ方などから、より人間の思考に近いメカニズムのシステムを目指しています。

熊本日日新聞社はシステムの検証の場として熊日電子版を提供しています。本システムは研究中のため、関係のない記事が掲出されこともあります。あらかじめご了承ください。リンク先はすべて熊日電子版内のコンテンツです。

本システムは「匿名加工情報」を活用して開発されており、あなたの興味・関心を推測してコンテンツを提示しています。匿名加工情報は、氏名や住所などを削除し、ご本人が特定されないよう法令で定める基準に従い加工した情報です。詳しくは 「匿名加工情報の公表について」のページ をご覧ください。

閉じる
注目コンテンツ
熊本の経済ニュース