天草の新ごみ処理施設「白紙」に 老朽化する現施設、更新・改修の負担重く【連載 灰の行方㊤】
天草広域連合(天草市、上天草市、苓北町)の新ごみ処理施設計画は、焼却灰の搬入先を巡って紛糾し、受注企業の「不適切な行為」(連合)を理由に契約解除の方針を決める極めて異例の事態となった。連合は再入札の手続きに入るが、新施設の稼働は当初の2027年度から3年ほどずれ込む見通し。現施設の老朽化も進む中、天草のごみ処理はどうなるのか。「灰の行方」を追った。
![老朽化が進む牛深クリーンセンター。ごみの重さを量る計量機の更新など本年度だけで6千万円近くの整備工事費を見込む=5月、天草市](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2024-06/IP240604TAN000028000_01.jpg?itok=Jg-CksJu)
ピットのごみを撹拌[かくはん]するクレーンの音が響く天草市魚貫町の牛深クリーンセンター。1992年3月に運用が始まったセンターは、壁や床の一部が剝げるなど老朽化が目立つ。
本年度はごみ計量機の更新に約1200万円など、施設の整備工事費に計5775万円を見込む。更新や改修は、支出が一時期に集中しないよう平準化しているが、老朽化するほど負担は大きくなるという。
天草市市民環境課の横山吉徳審議員(同センター担当)は「新施設の2027年度稼働を見越して補修計画を立てていた。稼働がずれ込むことで、さらに設備の更新が必要になるだろう」と気をもむ。
天草2市1町のごみ処理施設は天草市営3カ所と、広域連合運営2カ所の計5カ所。最も新しい本渡地区清掃センターでも供用開始から24年がたち、各施設とも設備の部分的な更新や補修でしのいでいる状態だ。
5施設から排出される焼却灰は年間約4100トン。天草市営分の計約800トンは牛深最終処分場へ、広域連合分の計約3300トンは大分市の最終処分場に搬入している。5施設の機能を集約する新施設は、それを全て資源化する計画だ。
新施設を巡っては、受注した川崎技研(福岡市)を代表とする企業グループが当初示した広島県福山市での資源化が困難となり、埼玉県の施設に搬入する代替案を提示した。ところが、企業グループは未着工だった福山市の施設を「建設途中」と説明するなど、「不適切な行為」が次々と発覚。連合は「事業提案書に虚偽記載があり、入札そのものが無効」と、5月25日に契約解除の方針を決め、計画は「白紙」になった。
企業グループは昨年5月に落札し、8月に契約を締結。契約額は368億5千万円だが、設計業務の段階で、今のところ広域連合の支出はない。ただ、新施設の稼働がずれ込むことで現施設の補修費がかさみ、新施設も資材費の高騰で事業費が膨れ上がる懸念がある。
天草広域連合環境衛生課の早見博之課長は「設備の更新で何とか対応しているが、不慮の事故で焼却炉が稼働できなくなれば市民生活にもかかわる。新施設を早急に稼働できるよう努めたい」と話した。
天草の住民グループは新施設の入札や契約内容に違法の疑いがあるとして、契約解除などを求めて住民監査請求。連合監査委員は請求を棄却したが、企業グループの虚偽報告など不当な事実が確認されたとして「解除すべきだ」とする「意見」を公表した。
請求人代表の男性(64)=天草市=は「入札段階からさまざまな問題があり、その都度検証していれば、もっと早く引き返せたはず。馬場昭治連合長(天草市長)や連合職員の責任は重い」と指摘した。(鬼束実里、福井一基)
天草地域のごみ処理施設 天草市営は牛深クリーンセンター(天草市魚貫町・処理能力1日36トン)、御所浦クリーンセンター(同市御所浦町・同10トン)、西天草クリーンセンター(同市天草町・同17トン)の3カ所。天草広域連合運営は本渡地区清掃センター(同市楠浦町・同93トン)、松島地区清掃センター(上天草市松島町・同34トン)の2カ所。
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツNEWS LIST
熊本のニュース-
暴力団排除へ啓発活動 熊本県警、藤崎台球場で試合観戦者に
熊本日日新聞 -
嘉島セレシアFCが2年ぶり優勝 熊日学童五輪女子サッカー
熊本日日新聞 -
熊本豪雨4年、遺族ら鎮魂の祈り 人吉市で追悼式典
熊本日日新聞 -
【速報】元城南町議殺害、強盗殺人疑いで男2人を逮捕 熊本県警
熊本日日新聞 -
熊本大空襲の写真、AIでカラーに 平和憲法を活かす熊本県民の会 記録や証言収集、後世へ【くまもと戦後79年】
熊本日日新聞 -
大震災の苦境と障害者の苦闘描く 映画「星に語りて Starry Sky」 7月21日、人吉市で上映会
熊本日日新聞 -
特殊疾病対策室長が異動 環境省発表 水俣病懇談で患者団体の発言遮断
熊本日日新聞 -
<万歳が 此の世の声の 出しをさめ> 残した川柳…等身大の特攻隊員 熊本番傘お茶の間川柳会代表の黒川さん【くまもと戦後79年】
熊本日日新聞 -
【J2第22節 熊本4-0愛媛】ロアッソ、魂込めたプレーを体現 陣形変更も好材料
熊本日日新聞 -
竜門ダムの未利用水、活用に一歩前進 県、TSMCなどに供給めざす 農業用パイプラインの利用承認【守る生かす熊本の水】
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
「すべての道は熊本に通じる」とは、蒲島郁夫前知事が熊本県内の道路整備に向けた意気込みを語る際に使ってきたフレーズ。地域高規格道路などの骨格的な道路や鉄道網は、地域・産業の活性化はもちろん大規模災害時の重要性も注目されています。連載企画「移動の足を考える」では、熊本県内の〝足〟の現在の姿を紹介し、未来の形を考えます。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格取得を目指す記者と一緒に楽しく学んでいきましょう。
※次回は「相続・贈与は難しい」前編。7月12日(金)に更新予定です。