国宝・松本城(長野県)の耐震化、熊本城復旧の知恵を 松本市教委が工事視察、災害防止策を探る 

熊本日日新聞 2024年4月17日 22:55
耐震補強の検討が進む松本城。乾小天守(右端)は震度6強以上で倒壊の危険がある(信濃毎日新聞社提供)
耐震補強の検討が進む松本城。乾小天守(右端)は震度6強以上で倒壊の危険がある(信濃毎日新聞社提供)

 発生から8年となった熊本地震で「復興のシンボル」と位置付けられる熊本城。復旧完了は2052年度と見込まれ、長期の工事が続く。熊本城被災をきっかけに城郭の耐震対策への関心が全国的に高まり、国宝松本城(長野県松本市)でも熊本城の復旧工事を参考にしながら、対策が始まっている。

 熊本城は熊本地震で13棟の国重要文化財全てが被災し、石垣は約3割に当たる約2万3600平方メートルで崩落や石が外側に押し出されて膨らむなどの被害が出た。天守閣は21年に復旧したが、他の櫓[やぐら]や石垣の復旧工事が続いている。

 城郭が被災すると文化財としての価値が損なわれるだけでなく、観光客らへの人的被害なども懸念される。松本城では14~16年度に建物の耐震診断を実施。震度6強以上の大地震が起きた場合、乾小天守[いぬいこてんしゅ]は倒壊の可能性があると診断され、現在入場禁止となっている。熊本地震発生を受け、20~21年度に実施した石垣の調査では、石が外側に最大19センチ膨らむなどして落石の恐れがあることが判明。天守の耐震補強が必要で、専門家による委員会が工法などの議論を続けている。

 松本市教育委員会文化財課の竹内靖長・城郭整備担当課長は「松本城の石垣は熊本城ほど高くなく、勾配も緩やかだが、地盤が弱いという特徴もある。文化財としての価値を守りながら安全性との両立を図りたい」と強調する。

 同課は昨年10月、職員2人を熊本城に派遣した。伝統的な工法で進められている石垣の復旧工事や、高さ5~7メートル、全長約350メートルの「特別見学通路」を城内に設置し、復旧途上の様子を観光客らに見てもらう取り組みも視察した。

 松本城の耐震工事では大天守(5層6階)の1~5階に鉄骨フレームを入れる方針で、鉄骨を支える基礎部分については史跡を傷めない方法を検討。石垣を補強するため、石垣の裾部分の地下にくいを打ち込むなどの対策も視野に入れている。

 熊本城では、崩れた石一つ一つについて元の位置を調べる作業にも時間を要している。同課は、松本城の天守や堀を支える石垣の状況や危険性、石の配置などをまとめた「石垣カルテ」を「10年以内に作成したい」とする。

 熊本城を視察した同課の福嶌彩子主任は「今も石が地面にごろごろと置かれている状況に胸が痛んだ。地域の誇りである松本城の被害をできる限り未然に防げるようにしたい」と気を引き締める。

 松本城の耐震工事のスケジュールは未定だが、市教委は熊本城を参考に、観光地として生かしながら松本城を地震による被害から守り、後世に残す方法を探る考えだ。(園田琢磨=信濃毎日新聞社提供)

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