水産業の未来、託せる政策を 宇土市のノリ養殖業 村田航太さん(27)【2024年知事選 若手記者企画「熊本暮らし 先輩に聞いてみた」①】
16年ぶりに熊本県のリーダーが変わる。将来を担う20~30代は、選挙投票率が低く、政治とのつながりが希薄とされる。日々の暮らしや未来に対し、どんな思いを持つのか。入社間もない熊日の若手記者が数年「先輩」の姿を追い、熊本で暮らす価値をともに考える。
「出来上がるノリは毎日色が変わる。『一番おいしい』と言われるように、どうすれば良いノリができるか、考える日々です」。祖父や父らと3代でノリ養殖を営む村田航太さん(27)=熊本県宇土市戸口町=は、今季のノリ漁が終わりに近づいた1日、ノリの乾燥施設がある実家で、出荷作業に精を出していた。
記者と同年代のノリ養殖の漁業者が、なぜ地元に残り、地域の担い手になったのか。暮らしぶりを知りたかった。
9月末から4月初めまで、冬の海での仕事が中心となる。ノリが収穫時期を迎えると「交代で睡眠を取りながら働く。忙しい時期は1週間、一日中、乾燥機が動き続ける」。村田さん一家も、弟の颯太さん(25)が毎日、船で網から回収するノリを、航太さんら家族が乾燥作業に当たる。
小さい頃から祖父の早稲男さん(80)、父の義男さん(50)が作業する漁船に乗り、その姿に憧れていたという航太さん。「祖父や父の背中を見て育ったから、ノリ漁師になると決めていた。地元を離れるつもりはなかった」。天草拓心高で水産業を専門に学び、卒業後に就業した。
宇土市では、網田、住吉の2漁協が熊本県全体の2割に相当するノリを生産する。村田さん一家が出荷する網田漁協では、今季は8日時点で計8071万7千枚を出荷。寒波に伴う強風で不漁だった昨季から一転して好調だ。航太さんも「ノリは天候に大きく左右される。今年は状態も良く安心」と胸をなで下ろす。
取材中も住居の横にあるノリ乾燥施設からは、機械の音が鳴り続く。自らの手で作るノリについて、生き生きと語る航太さんの姿が印象的だった。
航太さんが住む網田地区は、アサリやノリ、柑橘[かんきつ]類といった農水産物のほか、海や干潟を望む景勝地として観光資源も豊富だ。しかし、地区の人口減少は著しい。市によると、1982年度の5779人から、この40年で半減した。
人口減はノリ養殖にも大きく影響。担い手不足は深刻で、網田漁協によると、昭和の末ごろは180戸ほどがノリ養殖を営んだが、今では32戸まで減った。航太さんも「地元で同年代のノリ漁師は数人しかいない。小さい頃に遊んでいた公園では、子どもの姿を見なくなった」と嘆く。
「新規でノリ養殖を始めるには、船が必要だし、乾燥施設もいる。一からそろえるとなると費用は『億』を超える」と就業の難しさを語る航太さん。「興味を持った人が、漁業を体験できる機会や携わる仕組みがあるといいのに」と話す。
記者も日々の取材で、網田地区の住民から地域の人口減に危機感を抱く声を聞く。熊本県の産業を支えるためにも、少子高齢化に加え漁業者の担い手不足を食い止める必要性を感じた。
家庭では妻の夏萌さん(27)との間に生まれた娘(2)と息子(6カ月)を育てる。両親の助けを借りながら育児に励む一方、ノリ養殖業ならではの悩みもある。「クリスマスも正月も返上の世界。土日に一緒に出かけられないことだってある。自分も経験した寂しい思いを将来、子どもも感じるのか、とも思う」
祖父、父から継いだ家業を、子どもにも継いでほしい気持ちはあるが、将来その思いを伝えるつもりはないという。「父にも『継いでほしい』と言われたことはない。自分の決断だから、この仕事を続けることができている」
生まれた子どもが将来どんな人生を歩むのか-。航太さんが、父として、ノリ養殖の漁業者として、さまざまな思いを抱えていることが伝わった。
選挙の際には、なるべく投票へ足を運ぶという航太さん。「子どもの頃から『漁師のために動いてくれる政治家のため、投票へ行かなくてはいけない』と祖父たちが投票してきたのを見ていたから」
「候補者の公約を見て気になるのは、水産業の未来をどれだけ真剣に考えてくれているのか。子どもが生まれてからは、育児に関わる政策にも注目している」
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