【この人に聞く・熊本地震33】高知県黒潮町の大西勝也町長 世帯別に避難カルテ 「津波予測34メートルへの備え」
2012年に内閣府が発表した「南海トラフ巨大地震」の被害想定で、最大震度7、津波高34メートルの予測を突きつけられた高知県南西部の黒潮町。全町を挙げた防災活動の取り組みや、危機管理体制づくりの課題を、大西勝也町長に聞いた。(馬場正広)
-被害想定では、土佐清水市と並んで津波高が国内最大でした。町の取り組みは。
「東日本大震災の翌年、ある日突然に“日本一危ない町”というレッテルを貼られた。被災前に転居などが相次ぐ『震災前過疎』の懸念も広がった。人口約1万2千人、年間予算約50億円、防災担当職員2人の小さな町にできることは限られていた。まず、『防災・人命とは何か』と、住民や職員に問い掛けることから始めた」
-具体的な施策を教えてください。
「全職員約200人を町の14消防分団に割り当て、町内全域の61地区の担当者を決め、住民と協働で防災計画を考えた。避難経路や避難場所など、地区ごとに抱える課題の掘り起こしが狙いだ。計240の避難道や、5基の津波避難タワー整備、住家の耐震化促進などにつながった」
-熊本地震では、災害弱者の支援や避難先の把握が課題でした。
「命を守る第一歩は、速やかな避難だ。町民の4割近くは高齢者。そこで、津波で浸水のリスクがある全3791世帯の『戸別避難カルテ』を作成した。自力避難が可能かどうか、ご近所同士の連絡先など17項目を記してもらい、個々の状況に応じた避難計画を練っている」
「今まで、私個人も含め、行政主導の防災や危機管理に頼りすぎていた。大切な命の預け先が自治体だけでいいのか。行政から地域主導へと移すことで、住民一人一人の主体性が育まれ、コミュニティーの結束も強まった。カルテで把握した避難に必要な情報も、地域で活用したい」
-熊本地震で見えてきた課題は。
「職員が避難所に張りつき、マンパワーが足りなくなり、復旧業務が滞った自治体があったと聞く。住民主体で運営できていたら、状況は違ったかもしれない。しかし、震度7が連続で襲う地震は私たちも想定していなかった。災害への備えは、全国的に道半ばだ」
-熊本への期待はありますか。
「震災を経験し、県民の災害に対する意識は大きく高まったと思う。自然災害と向き合うのは怖い。しかし、被災経験を伝えられるのは被災者だけだ。災害から人命を守るため、全国に防災の重要性やノウハウ、その思いを伝える役割を担ってほしい」
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