「待機児童ゼロ」実態は…「送迎大変」転園は難しく 合志市の家族「きょうだい別の園」
「きょうだいを別々の保育園に預けていて毎日の送り迎えが大変。同じ園に移りたいが難しそう」。幼い子ども2人を育てる合志市の女性から「SNSこちら編集局」に困惑の声が寄せられた。「待機児童ゼロ」のかけ声の下、保育所などに入れない子どもは減っているはず。取材すると、データには表れない子育て世帯の苦労が見えてきた。
「あっくん、ご飯たーべて」。合志市の調理員、榎優実さん(29)の朝は慌ただしい。長男明ちゃん(3)と長女悠晴[ゆずは]ちゃん(1)に朝食を食べさせ、身支度を調えて午前6時半には自宅を出る。朝のラッシュの中、二つの園に子どもを預け、熊本市内の職場に着くのは午前8時ごろだ。
子どもの送迎は自衛隊員の夫、晃太朗さん(31)も担う。それぞれ早出や演習の日もあり、勤務をやり繰りしてしのいでいる。
先日、長女の園に空きが出そうだと聞いた。市役所に長男を転園させられないか相談したところ、「今の保育園を退園して希望の園に申請しなければならない。入所待ちの人が他にいる場合、必ず入園できる保証はない」と説明を受けた。
加えて、長男が認可保育所を退園すると「家庭で保育できる」とみなされ、長女まで退園しなければならないという。
「それでは仕事が続けられない」と優実さん。「待機児童になると困るので、申込書にあった『きょうだいが別になってもいい』との項目に印を付けたが、転園がこんなに大変だとは…」とため息交じりに語る。
合志市子育て支援課に取材すると、意外な事実が分かった。市は今年3月までは、きょうだいは同じ園に入ることを原則としていた。しかし「待機児童の解消」を国に求められ、本年度から保護者が同意した場合、別々の園に通えるよう仕組みを変えたという。
年度途中に「園を移りたい」と希望する人に退園を求める理由は、「退園が確定して初めて『空き』として数え、希望者の調整をするため」と説明する。
「特定の園を希望している」などの理由で入所を見合わせるケースは、待機児童から除外され、「保留児童」などと呼ばれる。4月1日現在の合志市内の待機児童は2人だが、保留児童は64人いる。
さらに、入所したものの困り事を抱えている榎さん家族のようなケースは、どの数字にも反映されない。
県子ども未来課によると、県内の待機児童数は今年4月1日時点で3市町15人(熊本市はゼロ)。受け皿の拡大と少子化により、ピークだった14年の678人から大幅に減った。一方、保留児童は11市町村の584人(うち熊本市385人)に上っている。
熊本学園大の伊藤良高教授(保育学)は「国は、待機児童の定義を『入園したい人が希望をかなえられていない場合』に広げて解消を図るべきだ。市町村はニーズを細かく把握した上で、定員増や保護者への情報提供に努めてほしい」と話している。(清島理紗)
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