暗闇の生態系「ダム心配」 五木村の九折瀬洞

熊本日日新聞 | 2021年02月10日 09:24

川辺川左岸にある九折瀬洞の出入口(中央)=7日、五木村(小野宏明)
希少生物が生息する九折瀬洞の「東ホール」=7日、五木村
九折瀬洞内に生息するユビナガコウモリ

 昨年の7月豪雨により、球磨川の支流・川辺川に流水型ダムの建設計画が浮上し、熊本県五木村にある鍾乳洞「九折瀬洞[つづらせどう]」の生態系が損なわれるのではないかと心配する声が再燃している。3千匹のコウモリや、ここにしかいない昆虫が生息するが、ダムができれば、洞の大半が水に沈んでしまうからだ。旧川辺川ダム計画時から、闇の中で繰り返される命の営みを追い続けている自然観察指導員県連絡会の調査に同行した。(木村彰宏、小山智史)

 五木村役場から川辺川沿いに約3キロ上流。左岸に切り立った岩壁の下部に縦3メートル、幅6メートルの穴がのぞく。総延長1・2キロに及ぶ九折瀬洞の入り口だ。

 40メートルほど進むと暗黒の世界となる。ヘルメットのライトで照らされた天井のあちこちに黒っぽいものがぶら下がっている。1匹ずつ下がっているのがキクガシラコウモリ。数匹が身を寄せ合っているのがユビナガコウモリだ。冬眠中とみられ、じっとしている。

 自然観察指導員県連絡会の一行は、岩の狭い隙間を腹ばいになったり、腰をかがめたりしながら、さらに奥に向かうと大きなホールに出た。気温は15・5度と外気より高く、湿度は80%でじめじめしている。地面にはコウモリのふんが堆積し、その上で節足動物のヤスデが群がるようにうごめいていた。ふんをえさにしているのだ。

 この日は、ガやカマドウマなど12種類の生物を確認した。ほかにも、固有種で絶滅危惧種のツヅラセメクラチビゴミムシ、イツキメナシナミハグモが生息する。長い年月、光が届かない所で生きてきたため、目が退化した。

 「九折瀬洞特有の食物連鎖が繰り広げられています」と案内役で連絡会副会長の中田裕一さん(58)。会は2000年に本格調査を始めた。川辺川ダム建設で洞内が水没し、生態系に影響が出るのを懸念したからだ。

 国土交通省はコウモリの移動のため、ホールと洞外をつなぐトンネル設置案を提示。これに対し、同会などは「不用意に穴を開ければ、恒温多湿の環境が変わり、生態系が崩れる」と指摘。結局、ダム計画が止まり、洞の環境は保全された。

 その後も連絡会は調査を継続し、今回が74回目だ。「ダム計画が再び動きだした時に備えるためでしたが、本当に計画が復活するとは思わなかった」。中田さんは戸惑う。

 ホール最奥部の壁に丸い突起が数百個並んでいた。触ると弾力性がある。全国でも確認例が少ないムーンミルクという特殊な鍾乳石だ。国交省の調査報告書にも記述がない。

 川辺川ダムでは、環境影響評価(アセスメント)がなされず、任意の調査が行われただけだ。連絡会会長の靎[つる]詳子さん(71)は「流水型ダムを造る場合、法に基づく環境アセスを求めていく」と言うが、国交省は実施を明言していない。

 今回の調査には八代市の災害ボランティアグループ「チームドラゴン」の4人も初参加した。今後、調査を支援する。「真っ暗な世界での生物たちの営みに驚いた。命がつながるよう見守りたい」。グループのメンバーで山鹿市の龍崎さちさん(41)は、泥がついた顔の汗をぬぐい言葉に力を込めた。(文=木村彰宏・小山智史、写真=小山真史・小野宏明)

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