銀行の認知症対応 「本人の利益」守り柔軟に
02月28日 09:40
認知判断能力が低下した高齢者の預金の引き出しに関する指針を全国銀行協会(全銀協)がまとめた。医療費など本人の利益が明らかな使途の場合に限り、親族らでも代わりに引き出せるとの考え方を示した。
預金の引き出しは本人の意思確認が必要で、原則として親族であっても認められない。認知症高齢者の増加に伴い、介護する家族から柔軟な対応を求める声が上がっていた。
限定的とはいえ、顧客の財産保護を優先してきた銀行界にとって大きな方針転換である。あくまでも「本人の利益」にかなうことを前提に、家族の実情に応じた融通が利く仕組みを構築してもらいたい。
厚生労働省によると、2012年に462万人だった認知症の人は、25年には5人に1人の700万人前後に上ると見込まれる。当然、銀行の顧客にも増えており、本人の財産を守るため、認知能力が低下したと判断すれば預金の引き出しに応じない銀行が多い。
認知症の顧客が保有する金融資産総額も膨らみ、30年には家計金融資産全体の1割に当たる215兆円に達するとの推計がある。適切な利用は、親族のみならず日本社会全体にとっても重要である。
認知症になった人の財産管理の仕組みには成年後見制度があり、家庭裁判所に選任された後見人は本人に代わって預金の引き出しや契約行為が可能になる。だが、弁護士ら第三者に資産を委ねることや報酬支払いへの抵抗感から、利用者数は18年末時点で22万人弱にとどまっている。
指針は、こうした実態を踏まえた。認知症の顧客との金融取引は「成年後見制度の利用を求めることが基本」とし、代理権のない親族との取引は「極めて限定的な対応」と明記した。本人との面談や診断書で「認知判断能力の喪失」を確認し、医療費や施設入居費など「本人の利益に適合することが明らかな場合」に、親族への払い出しに応じるとした。
投資信託などの金融商品についても預金と同様の考え方を示したが、解約は原状回復が困難なため「より慎重な対応」を求めた。
成年後見制度の後見人は当初、親族が大半を占めたが、着服が続発したため弁護士などの専門職が担うようになった経緯がある。親族の意向を尊重するあまり、指針を拡大解釈するようなことがあってはならない。必要な費用を口座から直接医療機関などに振り込むといった、不正を防ぐルール作りも必要だ。
指針は、地域で高齢者を支援する地域包括支援センターなどの社会福祉関係機関と、相談しやすい関係を築くことが重要だとも指摘している。顧客の認知能力の低下を把握したり、引き出しを求める親族らとのトラブルを防いだりする上で有効な手段となろう。
「人生100年時代」を迎え、これからの銀行には高齢者を支える地域ネットワークの一員としての役割も期待したい。
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