首長、農家ら〝怒りのボイコット〟 国営大蘇ダム完工式 再び漏水、直前に報告

熊本日日新聞 | 2020年11月26日 13:40

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25日に開かれた国営大蘇ダムの完工式。熊本県側の関係者に用意された座席は空席が目立った=大分県竹田市

 大分県竹田市で25日に開かれた国営大蘇ダム(熊本県産山村)の完工式は、熊本県側の受益地、阿蘇市と同村の首長や議員、農家ら約30人が欠席する異例の事態の中、式典が進められた。九州農政局から「想定を超える漏水」の報告が直前になったことによる、“怒りのボイコット”で、関係者からは「完工とは言えない」「安心して営農できない」と国への憤りの声が上がった。

 佐藤義興・阿蘇市長に国から報告があったのは式典前日の24日だった。佐藤市長は「地元に今後の方針を示さないままの完工式は、非常に失礼で無責任。県や産山村と連携して、地元の主張をしっかりと伝える」と語気を強めた。

 建設地の産山村に伝わったのは、さらに1日遅れの25日午前。村議会の全員協議会で式典「不参加」を決めた。市原正文村長は「もっと早く説明してほしかった。水を利用する農家が安心できるように、漏水の原因を究明して国が責任を持って対策してほしい」とあきれた様子だった。

 熊本県側の代表としてあいさつに立った木村敬副知事は、そんな地元の怒りの声を反映し、「きょうは完工式ですが、工事が終わったわけではない。最終的な漏水対策をしっかり完成させて」とくぎを刺した。

 大蘇ダムは農林水産省が1979年度に事業着手して40年超が経過。計画は何度も見直され、予定より30年以上遅れて完成し、事業費は当初の5・5倍の720億円に膨れ上がった。

 受益農家からも懸念の声が飛んだ。阿蘇市波野で夏秋トマトとアスパラガスを栽培する佐藤慎一さん(72)は「満水になったと聞いて期待していたのに、話にならない。水が必要な夏の時期に水不足にならないか心配」と困惑していた。

 一方、式典に参加した竹田市の荻柏原土地改良区でピーマンを育てる衛藤喜一さん(65)は「熊本県副知事のあいさつで、今回の漏水を知った。喜びの場だと思ったのにいいかげんにしてほしい」とばっさり。同地区のミニトマト農家の男性(67)も「同じことの繰り返しで農家の不安は尽きない。完工式は、国が一つの区切りを付けたかっただけではないか」と皮肉った。(東誉晃)