サブマリン・ヤクルト山中投手が引退 「オール熊本」の球歴

熊本日日新聞 | 2020年11月21日 16:00

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ヤクルトの先発山中=2017年4月、藤崎台(池田祐介)

 プロ野球では希少な右下手投げ、ヤクルトの山中浩史投手が引退を表明した。熊本県天草市出身の35歳。高校卒業後も県内の大学、社会人でプレーを続けて夢をつかんだ姿に勇気付けられたファンも多かったはずだ。球場で取材した一人として、ねぎらいの言葉を贈りたい。

 地面すれすれから繰り出す120キロ台の「遅い直球」と制球力が持ち味。100キロ足らずの変化球を織りまぜることで、打者の手元で浮き上がる直球を数字以上に速く見せた。27歳で入団したソフトバンクでは未勝利だったが、ヤクルト移籍2年目の2015年に初勝利を挙げ、通算17勝。熊本で培った投球術で野球の奥深さを示してくれた。

 甲子園の土を踏んだ必由館高時代は背番号1。ただ、目立つ存在ではなかった。県大会の初戦で負傷し、登板機会が少なかったためだ。ライバル校にも好投手が多かった。山中投手は今年5月、本紙の取材に対し、当時の経験を挙げ「向上心と悔しさが原動力となって、今までプレーを続けてきた」と述懐している。

 九州東海大(現東海大九州)で名実ともエースに成長。ホンダ熊本時代には、アジア大会やW杯の日本代表に選ばれた。たくましさを増し、制球を乱す場面はめっきり減った。打者との駆け引きも巧みになった。

 高校、大学、社会人と「オール熊本」の球歴を重ね、練習と経験を積むことで技巧派として完成した形だ。山中投手のケースを参考に、選手の個性に合わせた育成方法をシステム化できれば、力のある若い選手の県外流出にも歯止めをかけられるのではないか。

 九州独立野球リーグに参戦する県内初のプロ球団「火の国サラマンダーズ」創設の動きも進んでいる。実現すれば、不完全燃焼に終わった高校球児の有力な進路にもなろう。熊本に元気をもたらす取り組みの一つとして注目したい。(上妻公)