「名乗り出れば差別…」不安で申請伸びず  ハンセン病元患者家族補償法1年

熊本日日新聞 | 2020年11月13日 14:00

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療養所の退所者でつくる「ひまわりの会」代表の中修一さん(右)と話し合う県ハンセン病問題相談・支援センター「りんどう」相談員の紫藤千子さん(中央)ら=10月29日、熊本市東区

 ハンセン病元患者家族の差別被害に対して最大180万円を支給する補償法の成立から、15日で1年。厚生労働省が補償対象と認定したのは10月までに延べ5184人で、対象として推計した約2万4千人の約2割にとどまる。識者は「名乗り出て差別されることに不安を抱く家族が多い」とみている。

 厚労省によると、5184人のうち180万円が支給される元患者の親子や配偶者らは3261人。130万円が支給されるきょうだいや孫らは1923人。きょうだいとして申請後、親が元患者と分かるような事例がわずかにあり、統計は延べ人数となっている。

 10月14日現在の申請者は延べ6285人。月ごとの申請は3月まで800~千人台で推移していたが、その後は減少し、10月は204人だった。国のハンセン病問題検証会議の副座長を務めた内田博文・九州大名誉教授は「補償法を勝ち取った裁判原告らの請求が続いた後、その他の家族の支援に手が届いていない」と指摘する。

 補償法が定める請求期限は2024年11月21日。内田氏は熊本県ハンセン病問題相談・支援センター「りんどう」(熊本市東区)を例に挙げ、「不安を取り除く相談体制を都道府県ごとに充実させるほか、啓発の進み具合に応じて期限延長を検討することも必要」と指摘している。(木村恭士)

 ◇認定までに長い時間、難しい続き柄の証明

 ハンセン病元患者の家族に対する補償を巡っては、支給対象と認定されるまでに時間がかかることも課題になっている。差別を背景に元患者との続き柄を証明することが難しいケースでは、さらに遅くなるという。

 厚生労働省難病対策課によると、10月までに支給対象となった家族が補償金の申請から認定までにかかった時間は1~10カ月。同課は「審査による決定は月1回のため、時間がかかる」と説明する。

 県ハンセン病問題相談・支援センター「りんどう」が関わった3人が要した時間は5~6カ月。相談員の紫藤千子[しとうゆきこ]さん(58)は「審査が長引いたため、情報が周囲に漏れるのではないかと不安に陥り、申請を後悔する家族もいる」と話す。

 続き柄の証明が困難なのは、同居していたのに住民票に記載がなかったり、実の親子が戸籍上は他人となっていたケースなど。公文書に代わる資料の提出を求めて有識者の審査会に諮るため、さらに数カ月が必要となる。

 住民票などに記載がないケースについて、元患者家族を支援する徳田靖之弁護士は「家族が差別を恐れたため、住民票や戸籍に元患者を入れることができなかった。それしか理由はない」と指摘している。

 りんどうは「誰が元患者家族か分からず、こちらから手を差し伸べることはできない。悩んでいる人がいたら、こちらにつないでほしい」と呼び掛けている。TEL096(365)7606。(木村恭士)