子どもは〝人質〟保護者も口出しできず 自殺未遂起こした息子 心身に残る影響 学校関係者「部活の体罰は根が深い」 #体罰を考える #燃え尽きる体育会

熊本日日新聞 | 2022年9月9日 18:00

ソフトテニスに打ち込む、当時小学6年生だった娘の写真をスマートフォンで眺める女性。試合に負けると指導者から平手打ちされていた

 「指導者の体罰を苦に息子が自殺未遂をした」「部活で無理をして腰を痛めた娘には、心と体に影響が残っている」-。「部活と体罰」に関するアンケートを基にした熊本日日新聞の取材に、保護者たちは次々と悲痛な体験を明かした。ただ、教育現場では「子どもたちが〝人質〟に取られたようなものだ」と訴える保護者もおり、指導者に対して口を出しにくい状況もある。学校関係者が「根が深い」と指摘する体罰の背景が、ここにもある。(岡本遼、立石真一、太路秀紀)

 2022年2月、熊本市のパート女性(52)の元に突然、次男が通う中学校から連絡が入った。

柔道での次男の活躍が載った新聞記事や写真が入ったファイルを片手に取材に応じる熊本市のパート女性(52)

 ■「面倒見が良い人」からまさかの体罰 SOSに気づけず後悔

 「息子さんが洗剤を飲んで登校したようだ。体調を崩している」。聞いた瞬間、女性には状況が飲み込めなかった。

 次男が、放課後に通っている柔道の道場での練習が嫌で、「死んだ方がましだ」と考えるまでに追い詰められていたことは後から分かった。幼稚園の年長から柔道を習い始め、小学校、中学校と全国大会の常連でもある次男だが、実は道場のコーチから、気を失う寸前まで絞め技をかけられるなどの体罰を日常的に受けていた。

 女性はそれまで、コーチは次男を含む強い子どもたちを個別に指導する「面倒見が良い人」だと思っていた。体罰が繰り返されているなどとは思いもよらず、道場に行きたがらない次男に対して家族が厳しい言葉をかけたこともあった。

 問題が明らかになった後、コーチは道場を去り、次男は休養を経て柔道に復帰した。しかし、今でも首元付近にさわられるのを極端に嫌うなど、トラウマが残っている。

 女性は、次男がSOSを出すまでつらい状況に気づいてあげられなかったことを強く悔いている。女性は言う。「強くなるのに体罰は必要ありません」。次男には柔道強豪高校からの誘いもあるが、「楽しく柔道がしたい」と一般進学を目指して勉強に励む次男の思いを尊重するつもりだ。

 熊本日日新聞が8月下旬、読者との双方向型報道「SNSこちら編集局」のLINE登録者を対象に実施したアンケートでは、部活の指導で体罰は「必要ない」と考える人が「どちらかといえば」も含めて8割強だった。

 アンケートには1127人が回答。うち女性は676人に上ったが、「部活動の指導で肉体的な苦痛を与える『体罰』は必要だと思いますか?」との問いに対し、「必要だ」と答えた女性は1人もいなかった。

 ただ、保護者には、部活の指導者の指導方法に対して口を出しにくい雰囲気もあるようだ。

 ■平手打ちは負けた憂さ晴らし? 娘への報復恐れ黙認

 熊本県宇城市の女性会社員(58)には、忘れられない光景がある。

 十数年前のことだ。当時、小学6年生だった次女がソフトテニスの試合で負けるたびに、当時40代の男性指導者から平手打ちをされていた。その様子を目にしていた周りの保護者たちも「儀式みたいなものだ」と言っていた。

 練習中に男性指導者が子どもたちに手をあげることはなかった。だから女性には、男性指導者の平手打ちが「自分が率いるチームが負けた憂さ晴らし」にしか映らなかった。

 しかし、体罰に意見したら子どもが試合に出してもらえなかったり、保護者の見えない所で子どもが何か報復されたりするのではないかと不安になり、良くないことだとは思いつつも黙認していた。まるで娘を〝人質〟に取られている感覚だったという。次女には「試合で負けたら指導者にたたかれる」という恐怖感ばかりが植え付けられていた。

 次女はその後、中学、高校では体罰を科さない指導者に恵まれ、20代になった今も、熊本県外の実業団で選手として活躍している。しかし、小学生の時に経験した体罰のおかげで成長できたとは思っておらず、むしろ「消したい記憶だ」と話しているという。

 時には、保護者に圧力がかかることもある。

長女が中学時代、バレーボール部顧問から受けていた指導について話す熊本市の女性会社員(52)

 ■「あなたが座っているから」 保護者にもルール 破れば子どもが…

 熊本市の女性会社員(52)の長女は現在大学1年生だ。中学時代はバレーボール部に所属していたが、当時の男性顧問は部員だけではなく、保護者にも圧力をかける指導をしていた。

 中学1年、新チーム始動直後の練習試合。女性が応援していると、長女が突然、顧問から首根っこをつかまれて、体育館の外に放り出された。何が起きたか分からずに困惑していると、2年生の保護者から「あなたが座っているから子どもが犠牲になったのよ」と言われた。

 この部では、保護者は立って応援することを強制されており、私語も禁止という「ルール」があった。女性は前年に乳がんを患い体がきつかったこともあったが、何より「こんな指導はおかしい」と思い、他の保護者が立つ中でも自身は座ったままで応援を続けた。

 顧問は平日も、保護者になるべく練習を見学に来るよう求めていた。しかし見学に行くと、子どもたちは目の前で至近距離からボールを顔にぶつけられたり、取れない場所に何十回もボールを投げられて疲弊していた。見学していた保護者の中には涙を流す人もいたが、お互いに背中をさすって励ましあった。やはり、子どもを〝人質〟に取られたと感じていた。最終的には、子どもたちは試合に勝っても笑わなくなっていた。

 ■保護者もSOSを 外部の目で体罰認定

 指導者に、子どもを〝人質〟に取られたと感じている保護者からのSOSをくみ取り、教育界の「外」の目を入れて体罰を抑止する動きも始まっている。

 体罰に関する教職員の懲戒処分が続いた熊本市教育委員会は2020年度、学識者や弁護士、医師ら有識者5人による「熊本市体罰等審議会」を設けた。

 審議会は保護者などからの相談を基に、市教委の内部ではなく外部の目によって体罰や暴言に関する事実認定を行い、客観性や中立性を確保する狙いだ。審議会では2021年度までの2年間に202件を審議し、うち40件を体罰や暴言などと認定した。

 この審議会設置への流れを加速させたのも部活での案件だった。

 2019年12月、熊本市教委は陸上の強豪校だった市立高校監督の男性教諭を停職3カ月の懲戒処分にした。この教諭が1年余りの間に繰り返した体罰は、拳で殴る、平手打ちなど、部員13人に対して計35件に及んだ。この常習性が市教委内部でも重く受け止められた。

 熊本市内のある公立学校長は「部活動の体罰は根が深い」と明かす。部活動ではどうしても指導者と保護者との距離が近くなり、子どもたちを従わせるほど保護者から信頼される傾向があるという。そのため「子どもを追い詰める厳しい指導をしかねない」と言う。

 ■男性では4人に1人が体罰容認

 熊本日日新聞が実施した部活と体罰に関するアンケートでも、「どちらかといえば」も含めて体罰は「必要ない」派が9割近くに上った女性とは対照的に、男性では、「ある程度は必要だ」を含めるとほぼ4人に1人が体罰を容認する意見だった。

 年代別でも、30代以下では体罰が「必要ない」派が9割弱だったのに対し、60代以上では体罰容認派が2割強。世代によって意見の違いが見られた。

 体罰を容認する理由として、中学・高校時代はげんこつや平手打ちが普通だったという熊本市の60代男性は「体育会系ではふざけて練習していると命に関わるけがをするので、必要な時は体罰が必要だ」と回答。このほか「体罰と暴力は違う」「言葉で言って分からない場合は仕方がない」「愛情があれば構わない」「最近は、指導者がなめられたり萎縮(いしゅく)してしまっている」といった意見が目立った。

 しかし、行きすぎた指導は子どもの心や体に深刻な影響を残す危険もある。

 ■暴言、顔面にボール 心身に残る影響

 熊本市の女性会社員(39)の長女=中学3年生=はバレーボール部に所属。部顧問の女性教諭による指導は日頃から厳しく、「太っているから動けない」などの暴言を生徒に浴びせたり、顔面にボールを投げ付けたりしていた。

 2021年9月。長女は腰痛で練習を見学したいと女性教諭に伝えたが、「歩くくらいできるやろ」と言われ、認められなかった。翌日以降も見学は許されず、数日後にあった山の急斜面を使った練習の翌日、激痛でベッドから起きあがれなくなった。整形外科を受診したところ、「腰椎椎間板ヘルニア」との診断を受けた。

 長女は2022年1月、10日間ほど腰の治療のために入院した。退院後も女性教諭への恐怖心から部活に顔を出せなかった。

 学校生活にも影響が出て2月の学年末テストは別室で受験した。気分が落ち込む、両手の握力が10キロを下回る、といった症状も出て、4月には「心身症」の診断も受けた。

 保護者の訴えに、熊本市教委も聞き取り調査を実施した。8月の熊本市体罰等審議会で、女性教諭の部活動での指導は「不適切な行為」と認定された。

 長女には現在も腰の痛みやしびれがあるためリハビリ中で、手術も検討している。

 この記事は熊本日日新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。

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