「私、大学生になった」四肢不自由の24歳・山本さん サポート受け、社会福祉士と自立目指す 熊本

熊本日日新聞 | 2021年11月16日 20:00

社会福祉士を目指して熊本学園大に入学した山本栞奈さん=熊本市中央区

 20歳で突然四肢が動かなくなり、車いすで生活する山本栞奈[かんな]さん(24)=熊本市=が今年、熊本学園大に合格し、社会福祉士を目指して勉学に励んでいる。さまざまな困難に直面し、生きる希望を見失うこともあった山本さん。周りの支えで目標を見つけ、夢に向かって少しずつ歩みを進めている。

 「今日寒かったね」「ちょっと薄着じゃない?」

 10日午後9時半。「社会福祉入門」の授業後、友人と談笑する山本さんの姿があった。社会福祉学部第2部に入学後、新型コロナウイルスの影響で授業は全てオンラインに。その間は友人が板書を送ってくれ、一部再開した今は週2回、大学に通う。「ようやく大学生って実感が湧いてきた。友人に直接会えてうれしい」と喜ぶ。

 この日の授業では、手が動かせない山本さんの代わりに「学生サポーター」が山本さんの考えや板書をノートに書き写した。授業が終わると、サポーターは山本さんが口に着けている自動吸引器のコードをまとめ、車いすを押してエレベーターに乗り込んだ。

 山本さんがここまで来るには多くの困難があった。5歳から児童養護施設で暮らし、高校卒業後は陸上自衛隊に入隊したが、体調を崩して除隊。原因不明の発作を繰り返し、次第に四肢が動かなくなった。移動や入浴など日常生活に介助が欠かせなくなり、食事は胃ろうか流動食。病院を転々とする生活で「現実から逃げ出したかった」と振り返る。

山本栞奈さん(右)の考えを聞き取ってノートに書き写す学生サポーター=熊本市中央区

 転機は山鹿市の障害者支援施設「愛隣館」に移った時。車いす利用者の社会福祉士と出会い「支援とやる気があれば今の私でも働ける」と初めて前向きになれた。利用できる福祉制度や養護施設出身者のための奨学金についても教えてもらい、大学受験にこぎ着けた。

 身体や知的障害などで支援を必要とする児童生徒が全国的に増加する中、障害の有無にかかわらず同じ場で学べる「インクルーシブ教育」の理念が広がり、全国で教育環境の整備が進んでいる。学園大は2016年に「インクルーシブ学生支援センター」を設置。授業内容のデータ提供やサポーターによる代筆など、個々の障害に応じた支援を提供している。20年度にサポーターを利用したのは6人に上る。

 山本さんの場合は授業にサポーターが付き添うほか、課題レポートは音声入力で作成し、定期試験は口述で受験。努力の結果、前期の単位は全て取得した。一方で、通学には福祉タクシーを全額自己負担で利用しており、通学回数が増えれば対応できる事業者の確保や経済的な不安も残る。それでも、「何とかしようといろんな人が動いてくれる。頼りながら乗り越えたい」と前を向く。

 山本さんは「自立した生活を送りたい」と、9月からは施設を出て、看護師が24時間常駐する熊本市のグループホームで新たな生活を始めた。「周りの人のおかげで、親がいない自分を少し受け止められた。次は自分が誰かの役に立てたらうれしい」。自分だからこそできることを、一つずつ見つけている。(深川杏樹)

車いす用に高さが変えられる後方の机で授業を受ける山本栞奈さん(中央)=熊本市中央区

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