住宅街、イノシシとヤギ「お友達」 実は深刻な状況

熊本日日新聞 | 2020年11月15日 17:30

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ヤギと“交流”するイノシシ=9月15日、宇土市(前田寛さん提供)

 熊本市南区に接する宇土市。市中心部には、JRの駅や大型量販店が並び、熊本市の市街地から車で約30分という利便性の高さから、ベッドタウンとしての人気も高い。

 「野生のイノシシと飼われているヤギが遊んどるけん、取材せんですか」。9月中旬、読者から支局に電話が入った。現場は市中心部にある支局から北西に1キロほど。市役所からも南西に1・5キロほどしかない。市道沿いの閑静な住宅街の一角で、とてもイノシシが出るとは思えない場所だ。

 現場に駆け付けた時にはイノシシの姿は既になかったが、電話をくれた近くの前田寛さん(71)から、写真と動画を見せてもらった。

 ヤギは近くの高齢者施設で飼われている2歳の雄。つながれている空き地で、小型のイノシシと30分ほど“交流”を続けたという。お互い尻尾を振り合ったり、一緒に跳ねたり楽しそうに遊んでいるように見えたという。

 イノシシは集まった人たちが5メートルほどの距離に近づいても逃げず、住民がちぎったパンを投げると逃げ出したらしい。「みんな『かわいか、かわいか』と写真を撮っていましたよ」と前田さん。

 種類が異なる動物の交流という一見、心温まる風景。だが翌日、市農林水産課で写真を見せると、鳥獣害担当者は「ついにここまで…」と頭を抱えた。同じ日には、近くの住宅街の公園でもイノシシが目撃されていた。「住宅地なので猟銃や猟犬を使うわけにはいかず、現状ではイノシシを追い払うことしかできない」

 今回はイノシシがヤギと戯れていただけ。しかし、一住民として冷静に考えると「散歩中に出くわしたらどうしよう」「そもそもイノシシはいつ活動するのか」と不安になった。

 市の担当者に重ねて尋ねてみたところ、市内でのイノシシの捕獲数は昨年度で646頭と、ここ10年で約30倍になったという。知らなかったとはいえ、すさまじい増加ぶりに驚いた。

 市は、田畑を荒らす有害鳥獣とみなしたイノシシの成獣を駆除した場合、国の鳥獣被害防止総合対策交付金に市単独分を加えて、1頭につき1万2千円を支払う。ただ、市内に猟友会員は50人ほどいるが、実際に活動しているのは30人に満たないという。


 市の担当者は「目撃情報はすぐに寄せられるが、イノシシは賢くてわなを仕掛ければすぐに捕らえられるわけではない」と困惑の表情を浮かべた。

 ヤギと交流したとみられるイノシシは、1カ月近く周辺で目撃され続けた。10月中旬、住宅街で市職員と猟友会員が数人で網を使ってイノシシを捕まえたと聞いて、少しほっとした。(西國祥太)