4月13日付

04月13日 09:12

 今年の春の移ろいは、ことの外せわしい。ツバキ、サクラ、ツツジ、フジと、もつれ合うように続けて花を咲かせたかと思うと、見上げれば既にクスノキなどこずえの新緑が、陽光に映えてまぶしい景色をつくっている▼<若葉の頃を好きになったのは、この三、四年のことである>と、向田邦子さんは晩年の随筆でつづった。生死が懸かる大病を患った後、その美しさ、いとしさに初めて気付いたのだと。冬を経て芽吹く新緑は、傷ついた心身を癒やす再生の象徴であったのだろう▼オーガスタのコースとチャンピオンジャケットのグリーン。その鮮やかな色彩に向田さんと同じ思いを重ねて、テレビ中継に見入った人もいたのではないか。男子ゴルフ松山英樹選手のマスターズ・トーナメント優勝である▼松山選手がマスターズに初めて出場したのは、仙台市の東北福祉大学在学中だった。直前の東日本大震災発生で悩みながらも、被災者の応援を励みにプレーして、その大会ではベストアマを獲得。それから10年越しの悲願達成は、被災者への励ましのお返しとなったに違いない▼アジア系住民を標的にした憎悪犯罪(ヘイトクライム)が広がる米国で、日本人としてだけでなく、アジア勢でも初となったマスターズ制覇がもたらす意味も大きい▼松山選手が表彰会場に向かう途中、コース脇のファンたちと、笑顔で拳をタッチさせていたのが印象的だった。祝福と共感の拳が、暴力と憎しみの拳に傷ついた合衆国の多様性の再生につながればと思う。

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