【TSMCインパクト 第1部・強い光 影も濃く 進出地①】「客単価も日本人より高め」…台湾客ら飲食店に活況 需要の浮き沈み懸念も
世界的な半導体メーカーの台湾積体電路製造(TSMC)が日本で初めての工場を菊陽町に建設し、量産をスタートさせた。「進出地」は周辺自治体を含めて活況に沸く。ただ、さまざまな課題も横たわる。黒船にも例えられる巨大工場がもたらす光と影は─。年間企画「TSMCインパクト」の第1部では変わる地域の今を見た。(TSMC取材班)
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暮れも押し迫った昨年12月29日の夜。菊陽町のJR三里木駅近くにある飲食店の雑居ビルは、忘年会に訪れる客足が途絶えなかった。「人の流れは多い。平日でも2次会の店を探す人で、にぎわっていますよ」。1階で居酒屋「ふぅ凛[りん]」を経営する田北正臣さん(49)の表情は明るかった。
菊陽町で20年ほど飲食店を経営。ビルに入居したのは2022年2月だった。TSMCの進出で半導体関連企業の集積が進み、大手ゼネコンの接待も増えた。
三里木駅前の別の飲食店にも連日、「台湾から来た客の予約が1、2組は入る」という。「アコウやヒラメといった高級食材を頼む人が目立つ。客単価も日本人より高めだ」。男性店長は台湾客の気前の良さを実感している。
この界わいの飲食店主からは「外国人が注文する額は日本人の倍ほどだ。有名銘柄の焼酎をキープしてくれるし、馬刺しの皿を何枚も頼んでくれる」といった声も聞かれる。
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「こっちは甘口ですか? 辛口ですか?」。店内に、流ちょうな日本語が響いた。昨年12月21日、菊陽町の三里木駅前の「たわらや酒店」。台湾出身の3人が日本酒の品定めをしていた。
「5年前に来日した。日本酒特有の香りと甘さに引かれています」。熊本県内のIT関連企業に勤める30代の男性が教えてくれた。この日は、台湾からエンジニアの友人2人を連れてきた。
「2年ほど前から、台湾や韓国のグループ客が増え始めた」と、店主の宇野功一さん(55)は振り返る。日本酒が好きな外国人の嗜好[しこう]に合わせて、ワインよりも多く仕入れるようになった。「お土産用に、1人で2万円分、買い求める人もいるんですよ」
TSMCの菊陽町進出は、地元の商店に新たな客層を呼び込み、需要を刺激している。
とはいえ、たわらや酒店でも、より〝ひいき〟にしてくれるのは、地元の常連客たちだ。
「外国人や工事関係者による需要は浮き沈みが激しい。店同士も競争を迫られる」。地元の商店主らでつくる三里木商工繁栄会の藤本智久会長(55)は、そんな見方を示す。
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菊陽町に隣接する大津町のにぎわいはどうか─。肥後大津駅北口の居酒屋「紅葉亭」のおかみ、伊東暢子さん(64)は「TSMCの第1工場の建設が始まって以降、じわじわと客は増えてきた」と語る。町内で進むホテル開業の動きを踏まえ、「出張需要の増加」にも期待する。
ただ、ある飲食店の店長は「TSMCの第1工場の建設中、工事関係者の来店は期待したほどではなかった」と明かす。「第2工場の建設が本格化しても、地元客優先の店作りをしていく」と足元を見詰める。
このところ、伊東さんも微妙な変化を肌で感じている。町内のホテル代が高騰し、熊本市内の方が安いと宿泊先を変える人も出始めたという。「毎月来ていたのに、ぱったりと見なくなった人もいる」
大津町の商業地の基準地価(24年7月1日時点)は前年から33%上がった。全国でトップの上昇率だった。「うちはまだ、家賃の値上げには至っていないが、いつ求められるかと、みんな不安に思っていますよ」と伊東さん。商店主らが漠然と抱える〝戦々恐々〟とした思いを代弁した。(林田賢一郎、草野太一)
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連載・企画-
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