日本の特撮、伝え続けたい 特撮監督・三池敏夫(御船町出身)、40年の軌跡まとめた著書刊行 映像に作り手の思い凝縮

熊本日日新聞 2024年10月6日 06:05
日本の特撮をリードしてきた三池敏夫。「リアルをとことん追求していきたい」と思いを語る=8月、熊日本社(小野宏明)
日本の特撮をリードしてきた三池敏夫。「リアルをとことん追求していきたい」と思いを語る=8月、熊日本社(小野宏明)

 昭和、平成、令和と日本の特撮をリードしてきた御船町出身の三池敏夫(東京都)の40年にわたる軌跡を凝縮した「特撮美術監督 三池敏夫の仕事」(竹書房)が刊行された。膨大な資料を5年がかりでまとめた〝集大成〟からは、「特撮映画を支えてきた技術者たちの貢献を伝え続けたい」との思いがにじむ。

 円谷英二監督が編み出したミニチュアセットを使った特撮は長い間、日本のお家芸とされてきたが、技術革新によりCGが主流に。激流にもまれながらも、「2000年代からはミニチュアの良さを生かしつつ、CGとの共存を図ってきた」と振り返る。

2017~18年に開かれた「熊本城×特撮美術 天守再現プロジェクト」のプランイラスト(「特撮美術監督 三池敏夫の仕事」より)
2017~18年に開かれた「熊本城×特撮美術 天守再現プロジェクト」のプランイラスト(「特撮美術監督 三池敏夫の仕事」より)

 出版に当たっては、几帳面[きちょうめん]な性格の三池が作品ごとに残していた台本やスケッチ、図面、写真などを整理。「資料の裏付けを取ったり、権利者に許諾をもらったりしていたら時間がかかった。散々壊した東京タワーの管理者からも特別許可をもらいました」と笑う。

 「ゴジラ編」「ガメラ編」「『進撃の巨人』など一般作品の特撮美術編」「展示イベント編」の4章で構成。図録をふんだんに使い、作品や場面ごとに丁寧な解説を付け、巻末には〝戦友〟という樋口真嗣監督との対談も掲載している。

 ここまで、150を超える作品の特撮に関わってきた。自身の代表作として二つの作品を挙げる。1作目は「平成ガメラ3部作」(1995~99年)で、怪獣映画として初めてキネマ旬報のベスト10入りを果たした。「興行的にはいまひとつだったが、ミニチュアの完成度の高さが広く評価された。それまで見下されていた怪獣映画が認められるきっかけにもなった」

 <b>みいけ・としお</b> 1961年御船町生まれ。九州大工学部卒。84年、特撮研究所入社。「のぼうの城」「シン・ゴジラ」「シン・仮面ライダー」など数多くの映画やテレビの特撮に携わる。今後、「新幹線大爆破」(ネットフリックス)や「十一人の賊軍」の配信や公開が控えている。
 みいけ・としお 1961年御船町生まれ。九州大工学部卒。84年、特撮研究所入社。「のぼうの城」「シン・ゴジラ」「シン・仮面ライダー」など数多くの映画やテレビの特撮に携わる。今後、「新幹線大爆破」(ネットフリックス)や「十一人の賊軍」の配信や公開が控えている。

 もう一つは初めて映画の特撮監督を務めた「ウルトラマンサーガ」(2012年)。自らの原点というウルトラマンで特撮を任され、「自分がやってきたことに手応えを感じることができた」と回想する。

 ゴジラ映画誕生から70周年を迎えた今年、山崎貴監督の「ゴジラ─1・0」がアカデミー賞の視覚効果賞を射止めた。「円谷監督からつないできた日本の特撮の歴史を背負っての受賞。すごくうれしいし、誇りに思っている」と自分のことのように喜ぶ三池。日本の特撮の良さを聞くと、「いろんな人が手塩にかけて作った映像の持つ魅力かな。作り手の思いがこもっている。CGは何でもできちゃうけど、個性が感じられない」と語った。

 映画製作の一方、庵野秀明監督らと17年にNPO法人・アニメ特撮アーカイブ機構を立ち上げ、アニメや特撮の記録と記憶の継承に力を入れる。20年には福島県須賀川市に保存施設が完成。「世界に通じる特撮技術があったということを若い人たちに伝えたい」と講演会やワークショップにも積極的に取り組んでいる。

 「もの作りの方が自分に向いているし、何より楽しい」と63歳となった今でも現場に立つ。「体もだいぶくたびれてきたけど、仕事がある限りはやり続けますよ」。ぼやきながらも、目は笑っていた。

 A4判、256ページ。5489円。(坂本尚志)

「特撮美術監督 三池敏夫の仕事」の表紙
「特撮美術監督 三池敏夫の仕事」の表紙
映画「ガメラ 大怪獣空中決戦」で制作した70分の1スケールの東京タワーの全体図(「特撮美術監督 三池敏夫の仕事」より)
映画「ガメラ 大怪獣空中決戦」で制作した70分の1スケールの東京タワーの全体図(「特撮美術監督 三池敏夫の仕事」より)
映画「ガメラ 大怪獣空中決戦」に登場する六本木市街のミニチュア(「特撮美術監督 三池敏夫の仕事」より)
映画「ガメラ 大怪獣空中決戦」に登場する六本木市街のミニチュア(「特撮美術監督 三池敏夫の仕事」より)

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