日本の特撮、伝え続けたい 特撮監督・三池敏夫(御船町出身)、40年の軌跡まとめた著書刊行 映像に作り手の思い凝縮
昭和、平成、令和と日本の特撮をリードしてきた御船町出身の三池敏夫(東京都)の40年にわたる軌跡を凝縮した「特撮美術監督 三池敏夫の仕事」(竹書房)が刊行された。膨大な資料を5年がかりでまとめた〝集大成〟からは、「特撮映画を支えてきた技術者たちの貢献を伝え続けたい」との思いがにじむ。
円谷英二監督が編み出したミニチュアセットを使った特撮は長い間、日本のお家芸とされてきたが、技術革新によりCGが主流に。激流にもまれながらも、「2000年代からはミニチュアの良さを生かしつつ、CGとの共存を図ってきた」と振り返る。
出版に当たっては、几帳面[きちょうめん]な性格の三池が作品ごとに残していた台本やスケッチ、図面、写真などを整理。「資料の裏付けを取ったり、権利者に許諾をもらったりしていたら時間がかかった。散々壊した東京タワーの管理者からも特別許可をもらいました」と笑う。
「ゴジラ編」「ガメラ編」「『進撃の巨人』など一般作品の特撮美術編」「展示イベント編」の4章で構成。図録をふんだんに使い、作品や場面ごとに丁寧な解説を付け、巻末には〝戦友〟という樋口真嗣監督との対談も掲載している。
ここまで、150を超える作品の特撮に関わってきた。自身の代表作として二つの作品を挙げる。1作目は「平成ガメラ3部作」(1995~99年)で、怪獣映画として初めてキネマ旬報のベスト10入りを果たした。「興行的にはいまひとつだったが、ミニチュアの完成度の高さが広く評価された。それまで見下されていた怪獣映画が認められるきっかけにもなった」
もう一つは初めて映画の特撮監督を務めた「ウルトラマンサーガ」(2012年)。自らの原点というウルトラマンで特撮を任され、「自分がやってきたことに手応えを感じることができた」と回想する。
ゴジラ映画誕生から70周年を迎えた今年、山崎貴監督の「ゴジラ─1・0」がアカデミー賞の視覚効果賞を射止めた。「円谷監督からつないできた日本の特撮の歴史を背負っての受賞。すごくうれしいし、誇りに思っている」と自分のことのように喜ぶ三池。日本の特撮の良さを聞くと、「いろんな人が手塩にかけて作った映像の持つ魅力かな。作り手の思いがこもっている。CGは何でもできちゃうけど、個性が感じられない」と語った。
映画製作の一方、庵野秀明監督らと17年にNPO法人・アニメ特撮アーカイブ機構を立ち上げ、アニメや特撮の記録と記憶の継承に力を入れる。20年には福島県須賀川市に保存施設が完成。「世界に通じる特撮技術があったということを若い人たちに伝えたい」と講演会やワークショップにも積極的に取り組んでいる。
「もの作りの方が自分に向いているし、何より楽しい」と63歳となった今でも現場に立つ。「体もだいぶくたびれてきたけど、仕事がある限りはやり続けますよ」。ぼやきながらも、目は笑っていた。
A4判、256ページ。5489円。(坂本尚志)
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本の文化・芸能-
【こんにちは】火事に立ち向かう姿を表現
熊本日日新聞 -
アニメ原画に動きつけて 熊本市の必由館高生徒が制作体験 卒業生のアニメーターに学ぶ
熊本日日新聞 -
「ミス アジアパシフィック」受賞の植田さん、山鹿市に結果報告 「金灯籠」の贈呈も決定
熊本日日新聞 -
【とぴっく・荒尾市】荒彩会展
熊本日日新聞 -
熊本城「宇土櫓続櫓」の石垣、復旧に向け解体作業に着手 28年度の積み直し完了目指す
熊本日日新聞 -
山鹿灯籠踊り 24歳〝即戦力〟デビュー 歌と三味線担当の竹中さん
熊本日日新聞 -
菊池一族、朝鮮貿易で内紛 郷土史家・堤さん(菊池市)が論文
熊本日日新聞 -
自己決定、尊重する社会に 明治大法学部教授・鈴木賢さん
熊本日日新聞 -
【とぴっく・宇城市】第20回UKI美展
熊本日日新聞 -
文化活動通じ地域貢献の団体・個人、助成対象を募集 FFG文化芸術財団「ふるさと振興基金」
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛やより良い生活につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学んでいきましょう。
※次回は「家計管理」。11月25日(月)に更新予定です。