トライアルHD(福岡市)、「リテールテック」のトップランナー 顔認証決済、売れ行きチェックのAIカメラ… 自前の研究開発施設も

熊本日日新聞 2024年9月30日 06:05
「TRIAL GO脇田店」に導入している顔認証による決済システム=11日、福岡県宮若市
「TRIAL GO脇田店」に導入している顔認証による決済システム=11日、福岡県宮若市

 ディスカウントストアを全国展開するトライアルホールディングス(HD、福岡市)は、小売業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)に先行して取り組み、業務の効率化と省人化を進めている。セルフ決済の新技術を実証する店舗や研究開発の現場を訪ね、DXの狙いと成果を聞いた。

 JR博多駅前からバスに乗って、北東へ約1時間。福岡県宮若市の「TRIAL GO脇田店」には、最新の決済システムがお目見えしていた。買い物客がセルフレジで商品のバーコードを読み取った後、レジに据え付けてあるカメラに顔をかざすと、わずか数秒で支払いが完了する。

 顔やクレジットカード情報を事前登録すれば利用できる、新たな決済方法。実証試験を経て、全国の店舗に広げたい考えだ。

 脇田店の近くに、トライアルHDの研究開発施設がある。廃校を改装して2021年に開所した「TRIAL IoT Lab(トライアルアイオーティーラボ)」だ。

 ラボの1室に、人工知能(AI)カメラを取り付けた冷蔵ショーケースが鎮座。傍らではエンジニアが集中した表情で、パソコン画面と向き合っていた。

廃校を改装したトライアルHDの研究開発拠点。飲料売り場に設置する小型カメラの活用策を研究していた=11日、福岡県宮若市
廃校を改装したトライアルHDの研究開発拠点。飲料売り場に設置する小型カメラの活用策を研究していた=11日、福岡県宮若市

 トライアルHDは、デジタル技術を小売りの現場に取り入れる「リテールテック」のトップランナーだ。野田大輔・執行役員広報部長は「人がやったほうがいい仕事と、デジタル技術で省人化できる仕事を分けてコストを抑えれば、商品をより安く提供できる」と狙いを語る。

 24時間営業を基本とする各店舗には、買い物と並行してセルフ決済ができる「レジカート」や、商品の売れ行きをチェックするためのAIカメラを配置。商品を映像や音でPRする店内広告「デジタルサイネージ」も導入している。

 DXの成果の一つが、豊富な購買データの有効活用だ。例えばある商品をレジカートに入れると、「一緒に購入されそうな商品」が画面に表示される。また、在庫状況を示すデータを卸や物流業者と共有することができ、仕入れの効率化につながった。

 DXは日々進化中だ。ラボでは現在、AIカメラのさらなる活用方法を模索中。「まだ開発段階だが、店舗運営の効率化や省人化につながる試み」(野田氏)だという。

 トライアルHDはこのラボを含め、宮若市内に三つの研究開発拠点を展開。100人規模で、リテールテックの研究にいそしんでいる。

廃校を改装したトライアルHDの技術開発拠点=11日、福岡県宮若市
廃校を改装したトライアルHDの技術開発拠点=11日、福岡県宮若市

 3施設はいずれも廃校となった学校だ。ここにトライアルの従業員だけではなく、取引先の食品メーカーや卸売り、物流会社など約50社の担当者が日々出入りする。宮若市のほか九州大と連携。産官学で新技術を生み出す「オープンイノベーション」の場としても存在感を発揮しつつある。

 また、同じ宮若市内に置く研修施設では毎月、取引先を含めた約240人が集まり、店舗運営について意見を交わしたり、マーケティングの講義を受けたりして学び合う。

 野田氏は「人材交流を通してイノベーションを促進し、買い物客の満足度を高めたい」と力を込める。(山本文子)

デジタル人材が武器、効率的に店舗運営 野田執行役員広報部長

トライアルHDの野田大輔執行役員広報部長(同社提供)
トライアルHDの野田大輔執行役員広報部長(同社提供)

 トライアルホールディングスの野田大輔・執行役員広報部長(55)に、DXの効果や今後の展開を聞いた。(山本文子)
 
 -DXでどのような効果が出ていますか。

 「少ない人員で店舗運営ができる仕組みを構築し、人件費を抑えることができた。アプリやデジタルサイネージの活用で広告・販促費を低減し、その分、商品価格を安く設定できる」

 「例えば、一般的なスーパーでは開店前に商品を並べる必要があり、人件費だけが発生する時間帯がある。トライアルの店舗は基本的に24時間営業で、レジカートを含めセルフ決済の利用客が多い。来店が少なくなる深夜帯に、営業をしながら商品を並べるといった効率的な店舗運営ができている」

 -産学官のオープンイノベーションでは、どのような取り組みをしていますか。

 「九州大病院と連携し、病気を未然に防ぐ『予防医学』の研究をしている。トライアルの店舗で買い物をした人の性別や年代、購買履歴といったデータと、病院のカルテなどの医療データを掛け合わせて分析し、『この食品をよく買う人は病気のリスクが少ない』といった測定を試みている」

 -DX推進に必要なことは何でしょう。

 「デジタル分野で専門的な知識を持つスペシャリストの獲得と育成だ。中途採用を含めて力を入れている。デジタル人材を武器に、買い物がより便利になる店づくりや、新たな決済手段の開発を目指す」

 トライアルHD 小売り事業のトライアルカンパニー(福岡市)と、AI事業の「Retail AI」(リテールエーアイ、東京)などを傘下に置く。1981年の設立時から、ITで小売りを変えることを目指している。今年8月時点で、熊本県内の12店舗を含め、九州を中心に全国で323店舗を展開。3月に東証グロース市場に上場した。24年6月期の売上高は7179億円。

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