江良水産(天草市) 雑節生産で「だし文化」下支え 新商品の開発も 【地元発・推しカンパニー】
天草市久玉町の工場が近づくと、もくもくと立ちのぼる煙が目に入り、天草のまきでいぶした魚の香ばしい香りに包まれる。牛深地域が日本一の生産量を誇る「雑節」の加工を手がけ、調味料メーカーなどに出荷、全国の飲食店や業務用の調味料として使われている。日本の「だし文化」を下支えする存在だ。
雑節は、カツオ以外のサバやイワシ、ソウダガツオなどの節の総称。牛深地域は古くから水産加工業が盛んで、以前は約300件が軒を連ねたという。
4代目の江良浩社長(44)は元理学療法士。福岡市の病院に勤めていた2013年、3代目の父親が、原料となる魚の水揚げ量が不安定な状況が続いたことから「会社をたたむ」と言っているのを聞き、「家業を守る」とUターンした。17年、社長に就いた。
家業とはいえ、当初は手探り状態。「しけで水揚げがなく、2日しか操業できない月もあった」と振り返る。魚の確保に奔走し、父の代に九州で4カ所だった仕入れ先は13漁港に拡大。原料を冷凍保管するなどして、安定的な操業につなげていった。
販路拡大にも取り組み、24年7月期の売上高は、Uターンした13年(約1億5千万円)の約5倍となる約7億円を見込む。業績を伸ばすごとに工場を拡張し、今年も冷風乾燥機など新たな設備を導入する。
16年には熊本市内の削り節問屋と初めて商品を共同開発。熊本地震の発生時、市内の避難所で「お米はあるけど、おかずがない」との声を受け、その場で節を削って提供したところ、喜ばれたのがきっかけだった。
現在は、削り節や麺つゆなど7商品を販売。8月には、だし塩、スパイスだし、だしパックの3商品を新たに出荷する。江良社長は「ダイレクトにお客さんの声が届くのが2次加工業の魅力。もうけは少なくても、自分が食べたいと思えるものを作りたい」とこだわりを見せる。
こうした2次加工品の売り上げは、まだ全体の2%程度。今後は毎年少しずつ商品を増やし、将来的にはECサイトや販売所も開設したい考えだ。「家庭でだしを取る人は減っているが、うどんやおでんなどで身近に親しんでいるもの。インバウンド(訪日客)の需要も見据え、だしの可能性を広げていきたい」(福井一基)
メモ 江良浩社長の曽祖父と祖父が1947年に創業。従業員は14人。24年度の雑節の出荷量は、前年度より1割超多い700トンを見込む。
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