満州事変の「軍神」ゆかりの写真が遺族の元に 熊本市出身の荒木大尉 没後90年、米国経て〝帰還〟
雪化粧した山をバックに立つ碑には「荒木工兵大尉戦死」と記されていた。米国のネットオークションに出品されていた一枚の写真が、満州事変で戦死し、「軍神」に祭り上げられた熊本市出身の荒木克業[かつなり]大尉の現地墓碑とみられることが分かった。遺族が健在であることも判明。大尉ゆかりの写真は、没後90年余を経て遺族に返還された。
写真は、米国で戦時遺留品の返還に取り組む「キセキ遺留品返還プロジェクト」が今春、ネットオークションで発見して落札。収集家は入手経緯を知らず、キセキは西日本新聞「あなたの特命取材班」に調査協力を依頼した。「SNSこちら編集局」で西日本新聞と連携する熊本日日新聞も、協力して取材した。
写真には、碑の周りに複数の木札があり「嗚呼[ああ]忠烈」「満蒙之[まんもうの]守護神」などとある。手前に写る2本の線は鉄道とみられる。
荒木大尉は千葉の鉄道第1連隊に所属。1932年12月、中国東北部の旧・満州で作戦中、25歳の若さで戦死した。味方の列車との衝突を避けるため、自身を犠牲にして敵の列車を脱線させた英雄とされた。
1934年出版の中学の国文教科書に荒木大尉をたたえる章があった。広島大図書館が公開している教科書データベースで確認すると、荒木大尉が戦死した満州北部に建立されたという現地の墓碑の写真があり、碑の形状や背景の山などが、今回落札された写真とほぼ一致した。
熊本県護国神社の名簿には荒木大尉の記録があった。護国神社を通じて地元の遺族会に尋ねたところ、大尉の妹・菊子さんの夫、林田忠昭さん(86)が健在であることが分かった。菊子さんを含むきょうだいは全員亡くなったが、林田さんは熊本市南区にある荒木大尉の生家を継いで住んでいるという。
14日、取材班は林田さんを訪ねた。荒木大尉の遺品はほとんどが資料館などに寄付されたが、生家には満州の墓碑の前で撮ったという写真が残っており、今回の写真の碑と一致した。写真を手渡された林田さんは「きょうだいたちが生きていたら喜んだだろう。とてもありがたい。仏壇に飾るつもりだ」と義兄ゆかりの品の〝帰還〟を喜んだ。(西日本新聞・黒田加那、熊本日日新聞・東有咲)
■満州事変 日本の満州(中国東北部)に対する侵略行動。1931年9月18日、中国大陸、奉天(現・瀋陽)郊外の柳条湖で、日本陸軍の関東軍が南満州鉄道の線路を爆破した「柳条湖事件」を発端に始まった。関東軍は南満州鉄道の爆破を中国軍の仕業と偽って軍事行動を起こし、満州を占領。翌32年に傀儡[かいらい]国家の「満州国」を樹立した。日本の国際連盟脱退や日中戦争へと発展、太平洋戦争につながっていった。
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