<ゆりかご15年 エピローグ>生い立ち公表1年、動いた社会 開設日に預けられた宮津さん(19) 「すべての子どもに幸せを」
熊本市西区の慈恵病院が設置する、親が育てられない子どもを匿名でも預かる「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」。開設から15年が過ぎた2022、23年は、最初に預けられた子どもが成人し事実を公表したり、匿名の妊婦を受け入れる「内密出産」のガイドライン(指針)が示されたりするなど、社会が大きく動いた年でもあった。年間企画「いのちの場所 ゆりかご15年」のエピローグでは、預けられた事実を22年3月に公表した青年とこの1年の動きを振り返る。(「ゆりかご15年」取材班)
2007年5月10日、「こうのとりのゆりかご」の開設初日に預けられた宮津航一さん(19)=東区、県立大=が生い立ちを公表して1年が過ぎた。航一さんは「公表し、自分の出自をより肯定的に捉えられるようになった。すべての子どもたちが幸せになる世の中になってほしい。これからがスタート」。議論を呼び、社会が大きく進んだと感じている。
熊本市中央区のカトリック帯山教会。「ふるさと元気子ども食堂」の代表も務める航一さんは月1回、約150人の子どもや家族に囲まれる。すりおろしたニンジンが入ったカレーを無料で振る舞い、テーブルに笑顔の花が咲く。屋外では綿あめを作ったり、マシュマロを焼いたり。「航一くん、一緒に鬼ごっこしよう」。子どもたちから大人気のお兄ちゃんだ。
食堂は、生い立ちを公表する半年ほど前に始めた。福岡で起きた子どもの餓死事件に触れたからだ。「子ども食堂は貧困などのイメージがあるけど、誰でも来ていい。昔の子ども会のような役割を担いたい」
ひとり親や不登校など気になる家族もいる。運営する中で、地域や家族のつながりが薄くなった現代の課題が見えてきた。「育児中の人が孤立している。保護者が悩みをざっくばらんに話し合える仕掛けが必要」。地元校区のスクールソーシャルワーカーや民生委員との連携も始まっている。報道を見て、名古屋や広島から学生がボランティアに来たこともあった。
航一さんはこの1年間、県内外で十数回講演し、思いを語った。海外を含むメディア取材は100を超える。「ゆりかご」の事実を「より前向きに考えられるようになった」と話す。
預けられた後、里親だった美光さん(65)、みどりさん(64)と養子縁組を結ぶなど生い立ちを報じるニュースや「YouTube」のコメント欄には温かい言葉が寄せられる。一方、少数だが「生い立ちを話せば、生みの親のことが分かってしまう」などの批判もあった。
ただ航一さんは、少なくとも自分の考えが伝わったと捉えている。「ゆりかご」について否定的な意見を耳にすることがあっても「注目されなかったら賛否両論もない」と思うからだ。
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