コロナ対策の厳罰化 ハンセン病問題を教訓に

01月18日 09:22

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が対策の実効性を高めるためとして、にわかに関連法の厳罰化を進めようとしている。

 今日召集される通常国会に、ともに罰則を盛り込んだ新型コロナウイルス特別措置法と感染症法の改正案を提出する予定だ。感染症法の改正では、これまでも刑事罰の対象だった危険な病原体をみだりに拡散させ公共に危険を及ぼした場合など以外にも、感染者が入院勧告や保健所の調査に従わなかった場合などに、懲役刑や罰金刑を科す案が浮上している。

 感染症法はその基本理念で、患者らの人権の尊重を掲げている。その背景となったのが、強制隔離政策によって患者らが多大な人権侵害を受け、偏見差別を深刻化させる結果となったハンセン病問題の歴史に対する反省だった。今回の改正は、そうした教訓に照らしても妥当性があるのか。冷静に考える必要がある。

 「らい予防法」以上

 あらかじめ断っておきたいが、ハンセン病は、らい菌による慢性疾患で、感染力は弱く致死率もごく低い。急性の新型コロナウイルス感染症に単純に重ねることはできない。だが現在は容易に完治するハンセン病も、当初は有効な治療法がなく、病気への社会不安が強かった点では共通している。

 ハンセン病の強制隔離政策がエスカレートした一因には、医療自体が隔離され、隔離先の国立療養所長ら一握りの専門家によって政策が左右されたことがある。

 1951年、強制隔離政策を規定した「らい予防法」の改正を検討する国会で、療養所長たちは「手錠でもはめてから、捕まえて強制的に入れればいい」などと証言。これを受け、既に特効薬が導入されていたにもかかわらず、強制収容の規定は強化された。

 ただ、改正後の法律でも、入所を拒んだ人に対し、懲役刑まで科すような規定はなかった。そうした点においては、今回の感染症法改正案は「らい予防法」以上の厳罰化とも捉えられる。

 医学会連合が反対
 このような法改正の内容については、「らい予防法」とは対照的に、多くの専門家から反対の声が上がっている。

 日本医学会連合は緊急声明を出し、「厳罰を恐れるあまり、検査結果を隠すなどかえって感染コントロールが困難になることが想定される」と指摘。さらに「罰則を伴う強制は国民に恐怖や不安・差別を引き起こすことにつながる」とした上で、「偏見・差別を抑止する対策を伴わずに、感染者個人に責任を負わせることは受け入れがたい」と訴えている。

 13日時点で、新型コロナの自宅療養者は全国で3万人を超えた。入院を望む人たちにも十分な受け皿がないのに、入院拒否の厳罰化を進めるのは矛盾していないか。

 政府は今回の感染症法改正で、病床確保のため、医療機関への協力要請を「勧告」に強める方針だが、泥縄的対応だろう。これもまた、感染抑止のための社会防衛策として隔離を強化しながら受け皿の療養所は収容数増加を優先し、医療環境は貧困だったハンセン病政策の過ちの歴史を想起させる。

 正しく恐れるため

 感染症は、抑止と人権のバランスをとるためにも、正しく恐れることが必要だとされる。そのためにも重要なのが、行政から国民に適切な情報を提供して、政策に対する納得と理解を得るリスクコミュニケーションである。

 ハンセン病では、強制隔離政策を進めるために、行政が国民に対して病気への恐怖を一方的にあおり続け、長く是正することなく放置した。

 新型コロナの場合はどうか。最初の緊急事態宣言の解除後は、収束前に「Go To」キャンペーンという抑止とは正反対の政策を実施。感染症法の位置付けでも新型コロナ感染症の危険度分類を緩めることが検討されていた。それが感染拡大に対する対応遅れへの批判が高まったとたん、ワクチン接種も視野に入ったこの時期に厳罰化を持ち出した。国民はその振幅の大きさに振り回されるばかりで、納得と理解を示しているとは思えない。

 政府は厳罰化について、全国知事会からの要請を理由の一つとしているが、知事会は刑事罰まで望んでいるのか。かつて各自治体が「無らい県運動」というハンセン病患者の強制収容を競った歴史も踏まえての要請なのか問いたい。

 国会も、ハンセン病政策の立法措置で過ちを犯した過去を胸に刻み、慎重に審議すべきだ。その審議において、これまで述べた多くの疑念が解消されない限り、法改正による厳罰化、特に刑事罰の対象拡大には賛同しがたい。

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