出生前診断 意思決定支える仕組みを
04月07日 09:15
妊娠中に胎児の異常を調べる出生前診断について、厚生労働省は「医師が積極的に知らせる必要はない」とした1999年の見解を約20年ぶりに転換する方針を打ち出した。検査に関する情報を国や自治体が妊婦らに提供する体制を整えるほか、検査実施施設の認証制度を国も関与する形に改める。
出生前診断には命の選別につながる懸念があることを踏まえ、検査を受けるかどうかなどを判断するには正しい説明や専門的なカウンセリングが欠かせないとの結論に至った。妊婦やその家族の不安にしっかりと寄り添いながら意思決定を支える仕組みを構築してもらいたい。
現在主流となっている出生前診断は、妊娠10週以降の早い時期に妊婦の血液に含まれる胎児のDNAを調べ、ダウン症などの原因となる3種類の染色体異常を判定する。一定の頻度で偽陽性や偽陰性が発生するため、確定するには羊水検査が必要となる。
日本産科婦人科学会が2013年に指針を策定。遺伝カウンセリング体制の整った大学病院などを認定し、原則35歳以上を対象とするなど限定的に実施してきた。
しかし、出産の高齢化などで検査への関心が高まり、指針に従わずに検査する無認定の民間クリニックが急増。十分な説明や支援を受けられずに妊婦が混乱するといった問題が生じている。
インターネット上には疑わしいものも含め、出生前診断に関するさまざまな情報があふれている。もはや「知らせない」ことよりも、信頼できる機関が正しい情報を適切に伝えることの方が重要だろう。
一方で、ダウン症のある人や家族でつくる日本ダウン症協会は「ダウン症が検査をして産むか産まないかを選択する必要のある障害だという、誤った理解を広めかねない」と懸念を示している。検査を推奨するための方針転換ではないことも丁寧に説明するべきだ。
国は今夏に新制度の運営組織を発足させ、妊婦への情報発信も担わせる。生命倫理や法律、障害者福祉、障害当事者など幅広いメンバーで、適切な情報提供の内容や方法を検討してもらいたい。
無認定施設の質を高めていくという視点も必要ではないか。全国には3月時点で138の無認定施設があり、認定施設(109)を上回っている。そうした施設を黙認したままでは、適切な相談支援を受けられないケースはなくなるまい。
認定施設ではこれまで8万人以上が検査を受けたが、陽性が確定した妊婦の多くは人工妊娠中絶を選んだ。産み育てることをためらう理由には、胎児に先天性疾患などが判明した場合に医療や福祉のサポートが得られるかといった不安があるという。
疾患や障害があっても安心して産み育てる社会であることが、出生前診断の前提となろう。妊婦やその家族だけでなく、社会全体が向き合うべき課題だ。
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