「性別」偏見なくして 熊本県内に動き広がる 履歴書、記入欄なしや提出廃止も

熊本日日新聞 | 02月05日 16:00

「性別欄への記入には不安がつきまとう」と言う、トランスジェンダーの曽方晴希さん=熊本市中央区
コクヨが発売した性別欄のない履歴書(同社提供)
採用選考での履歴書を廃止した「えがお」で、「志望者の人間性をより重視するようになる」と話す人事部の酒匂明彦さん(左)=熊本市東区

 就職活動に使われる履歴書や学校の制服などさまざまな場面で、性別による区分をなくそうという動きが広がりつつある。後押しするのは、性的少数者への配慮に加え、個性や多様性を尊重しようという社会の風潮だ。性別の縛りを超え、自分らしく生きられる社会づくりに向けた熊本県内の動きを取材した。

 就職活動やアルバイトなどの採用に使われる履歴書で、心と体の性が一致しないトランスジェンダーへの配慮から性別欄をなくす動きが出ている。履歴書自体の提出を求めないと決めた県内企業もあり、当事者は「性別に基づく無意識の偏見の解消につながる」と期待する。

 「履歴書の性別欄は本当に必要か、考えてみてほしい」。トランスジェンダーの曽方晴希さん(31)=熊本市=は問い掛ける。女性として生まれたが、性自認は男性。性別適合手術を受けて体も男性となったが、戸籍は女性のままにしている。

 履歴書を書く際は常に迷いや不安がある。高校生の時は「女性」と記入してアルバイトに応募した。「本当は男性と書きたかったが、戸籍上は女だと分かったらどうなるか不安だった」。今は男性と記入するが、「カミングアウトしてない人に知られる怖さがある」と語る。

 性的少数者への理解を訴える市民団体「ダイバーシティWaku Waku」のメンバーでもある曽方さん。「性別が記載されることで、採用側に『女性に力仕事は無理』といった無意識のバイアス(偏見)が生まれる。性別などの属性ではなく、その人を見て評価する採用が広がってほしい」と願う。

 大手文具メーカーのコクヨは昨年12月、性別欄のない履歴書を発売した。日本規格協会が同年7月、LGBT当事者らの要望を受け、日本産業規格(JIS)の様式例から履歴書を削除したことへの対応だ。

 コクヨは「さまざまな理由で性別の開示を希望しない人にも、商品の選択肢を示す必要があると考えた」と説明。現在はオンラインショップのみの販売だが、いずれは店頭販売したい考えだ。

 性別欄への記入を強制しない動きもある。熊本市は18年度以降の職員採用試験で、身体能力の測定が必要な消防職などを除いて、性別記入を任意とした。市人事委員会事務局によると、19年度と20年度の採用試験の上級事務職応募者約600人のうち、1~2%が記入しなかったという。同事務局は「多様な人材を確保できるメリットがある。特に不都合はない」と話す。

 一方、健康食品通信販売の「えがお」(熊本市)は、今年の新卒採用選考から履歴書そのものを廃止した。代わりに応募者自身が描くキャリアビジョンや価値観などを記入した書類を提出してもらい、面接の資料に使う。

 人事部の酒匂[さこう]明彦さん(26)は「採用選考には性別だけでなく、学歴の記載や顔写真も必要ないと以前から感じていた。人間性をより重視した採用ができるようになる」と話す。

 「ジェンダー平等」の視点から、女性が働きやすい環境整備に努める同社。ブランド戦略部の村上広華さん(26)は「性別に関係なく、誰もが自己実現できる職場を目指したい」と語る。(平澤碧惟)

受け入れる姿勢を大事に 性的少数者の問題に詳しい森あい弁護士(阿蘇法律事務所)の話

 性別欄の削除はトランスジェンダーへの配慮を考えるきっかけになるが、彼らが抱える問題を万事解決できるわけではない。名前で性別を推測され、面接で身体の状態などを詮索されたり、採用後にトランスジェンダーだと分かり、責められたりするケースもある。大事なのは、トランジェンダーだと分かっても偏見を持たずに受け入れる姿勢だ。

 LGBTに配慮する企業は全国的に増えているが、熊本ではあまり聞かない。性別欄の削除は、性別にかかわらず一人一人を見るという姿勢を示すことになり、魅力的な人材を集めるためのアピールにもなる。

 日本は男女不平等社会なので、むやみに性別の区分や男女別の統計をなくして男女格差の状況が見えなくなってしまうのは問題だ。何のために性別を区分するのか、本当に区分が必要なのか、案件ごとにしっかりと吟味することも重要だ。

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