立ち直りへ「居場所」必要 熊本県内の更生保護施設、17歳少年

熊本日日新聞 | 2020年9月24日 15:00

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更生保護法人「熊本自営会」の岩崎健朗施設長(奥)と今後の目標などを話す入居者の少年=22日、熊本市中央区

 8月末に福岡市の商業施設で女性が刺殺された事件で逮捕された15歳の少年は、身寄りがいない元受刑者や少年院を出た少年を引き受ける「更生保護施設」に入った直後だった。ネット上などでは、更生保護施設への批判や少年の更生への疑問の声も。これに対し、県内唯一の更生保護施設で生活する17歳の少年は「立ち直るために欠かせない居場所。理解が広がってほしい」と願っている。

 「率直に何であんなにひどいことができるの、って思います」。22日夜、熊本市中央区渡鹿の熊本刑務所のそばにある更生保護法人「熊本自営会」が運営する施設の集会室。初対面で少しはにかみながらも、事件についての質問にじっくり考えて答える姿は律義な印象だ。「でも、程度は違えど自分も許されないことをした」

 県外出身で、2カ月前に少年院を出た。罪状は高校の同級生への暴行。ささいなトラブルから、エスカレートして連日殴り続けた。
当時、自転車窃盗で試験観察中だったため少年院への入院が決まった。家族関係の不安や家計の事情を抱え、窃盗を繰り返していた。退院後、実家には幼い弟たちもいて帰宅を許されなかった。

 施設に入ってからは解体作業員として働き、今は職業訓練校への入学や高卒認定試験を目指し勉強中だ。「施設の人や大人の入居者に何かと相談できるのは安心。ちゃんと自立したいと思う」。自分の中で確実な変化を感じている。
更生保護施設は事件を防げたのか-。「福岡の加害少年は、精神状態や家庭環境など極めて特異なケースとの報道もある。何ができたかは正直分からない」。熊本自営会の岩崎健朗施設長(64)は険しい表情で語る。

 ただ、精神疾患などがある入居者の場合、医療関係者らと治療計画を立てて対応する。特に未成年者の場合は、「大幅に改善する事例も多い」という。
熊本自営会は1913(大正2)年に発足。入居者は年間計100人前後で、入居期間は人によって違うが、20人の定員は常時ほぼいっぱいだ。うち、未成年者の入居は年に1、2人程度という。

 「施設があれば全て解決、というわけではない」と岩崎さん。薬物事件で何度も刑務所に入り、施設に帰って来る人もいる。一方、施設を出て就職や結婚をして報告に来る人も多い。岩崎さんは「社会的な居場所や人間関係があれば、大半の人は立ち直ることができる」と確信している。

 凶悪犯罪が起きるたびに元犯罪者への風当たりは強まる。17歳の少年も「被害者や家族が絶対に許せないのは当然。犯罪の事実は消えない」とうつむく。

 「それでも…」と少し考え、「『許す』ってことは簡単じゃないけど、社会が全否定すれば、行き場がなくなってしまう人がたくさんいると思う」。(堀江利雅)

 ◇更生保護施設 刑務所や少年院を出て、家族や身元を引き受ける人がいないなど、自立更生までの支えが必要と保護観察所が判断した元受刑者らに住まいや食事を提供する民間施設。法務省によると全国に103カ所、県内は1カ所。保護司や各種支援団体と連携して、就労のあっせんや技能学習なども支援する。精神疾患や薬物依存、対人関係の問題などへの専門的なケアにもつなげる。