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「硝子戸の中」地味な作品? これって割と面白いやつかも <アイラヴ漱石先生朗読館=2023年2月5日放送>
#読むラジオおはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック、アイラヴ漱石先生が令和4年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、熊本マリスト学園高校1年生の森美乃さん、磯田康介さんと、漱石の随筆、硝子戸の中の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人熊本漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。
<朗読>「硝子戸の中」
硝子(ガラス)戸(ど)の中(うち)から外を見渡すと、霜除(しもよけ)をした芭蕉(ばしょう)だの、赤い実の結(な)った梅もどきの枝だの、無遠慮(ぶえんりょ)に直立した電信柱だのがすぐ眼に着くが、その他(ほか)にこれといって数えたてるほどのものは殆(ほと)んど視線に入って来ない。書斎にいる私(わたくし)の眼界は極めて単調でそうしてまた極めて狭いのである。
その上私は去年の暮から風邪を引いて殆んど表へ出ずに、毎日この硝子戸の中にばかり坐(すわ)っているので、世間の様子はちっとも分からない。
<本田>朗読は森美乃さんでした。それでは今日は、熊本マリスト学園高校1年生の森美乃さん、磯田康介さんと、漱石の随筆、硝子戸の中の魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。
<西口>漱石が晩年に住んだ家を、漱石山房と呼びます。漱石山房の書斎の硝子戸の内側、それが作品のタイトル、硝子戸の中。週日、漱石はそこに座り、外の世界を見、気の向くままに静かに人生と社会について語る随筆です。これが書かれた翌年、大正5年の12月9日に、漱石は亡くなっています。忘れられない人々との思い出や、自らの幼年期の記憶について書かれたところを読めば、当時の漱石には、すでに死の予感があったのかもしれないと思わずにはいられません。修善寺の大患以降、漱石の体の不調は続きます。症候状態とはいえ、新聞社との契約を守る必要もあってか、風邪がなかなかなおらないという中で、この作品は書かれています。そんなところにも、漱石の真面目さ、義理堅さや、生活者としての姿を見て取ることができます。1915年、大正4年の1月13日から2月23日まで、朝日新聞に39回にわたって連載されたエッセイ、硝子戸の中は、こころを書いた後に、そして道草執筆の前に書かれた作品です。48歳当時の漱石は、すでに悟りの境地にあったようです。静かで穏やかな心を持って、自分の身の回りの出来事を回想しています。人生を肯定し、一日一日を大切に生きようという意志を感じ取ることができます。硝子戸の内側にいる小さな自分と、硝子戸の外側の広い世界。最終話39回には、優しい春の光に包まれ、夢見心地の漱石の姿が描かれます。漱石は確かにそこに生きています。
<本田>では、ここからは3人で、作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。
<西口>森さん、磯田くん、今日はよろしくお願いします。
<高校生>よろしくお願いします。
<西口>では早速ですけれども、硝子戸の中という地味な作品ですよ。地味な作品。それを選んだ理由を聞かせてください。森さんどうぞ。
<森>最初、短いところだけ読んだんですよ。そしたら、倦怠感が漂う感じで、淡々とした話がずっと続くのかなって思ってたんですけど、もう少し先まで読んでみたら、ちょっとワクワクしたりとか、誰かと話して驚いたりとかしてる、そういう感情が入ってきたので、あっ、これって割と面白いやつなのかもしれないと思って、読んでみようかなって思いました。
<西口>なるほどね。では、磯田くんはどうだったんですか?
<磯田>硝子戸の中は、漱石が死ぬ1年前に描かれた作品って聞いて驚いたんですよね。だいたい人って、死ぬ間際とか死ぬ直前とかって、いろいろとインパクトを残すじゃないですか、作品とかに。正岡子規の死ぬ直前に描いた3つの句っていうのがあるんですけど、それ3つとも本当に素晴らしいと思ってたんですよ。
<西口>絶唱だもんね。
<磯田>これを寝たきりの状態で。
<西口>そう、痛いのにね。
<磯田>もしかしたら、漱石もそういう死ぬ間際にすごいインパクトを残しているんじゃないかなと、興味本位でこの作品を選びました。
<西口>なるほど。実際に読んでみて、どこが面白かったですか、森さん?
<森>自分は18の頭の中が片付かないって言っている女の人のお話が結構好きなんですけど。
<西口>たくさん漱石の書斎に訪れる人の中で、この人に興味を持ったわけね。
<森>そうですね。
<西口>漱石は具合が悪くて休んでるんですけどね。そこに来て、面倒なことを言う女の人の話に付き合ったわけですよね。それってどう思いました?
<森>そもそも人と話すのが好きじゃないとこんなことできないし、どんな人が来てもこの人面白いなって思える人だから、すごいなって思いました。
<西口>漱石は偏屈なイメージがあるけれど、このところを読んだりすると、いやいや違うぞって、人が好きなんだなっていう。
<森>そうですね。そんな感じしました。
<西口>じゃあ磯田くんはどうですか?
<磯田>面白いと思ったところは28章のところなんですよね。28章は主に自分の飼い猫のことについて書かれているんですよね。ある人が来客してきて、自分のうちの猫を見て、この子何代目なんですかって聞いてきて、この子2代目なんですよって答えたり、自分の猫は過去に皮膚病にかかったことがあるとか、いろいろと記されてあったんですよね。猫で夏目漱石? それって「吾輩は猫である」。あっ、漱石は本当に猫が好きなんだなって。そういうのを個人的に思って面白いなって僕は思いました。
<西口>犬の話があったり猫の話があったりするけれど、あったかい漱石が見えるような気がしますよね。難しかったところはどういうところですか? 今度は磯田くんから聞こうか。
<磯田>3章らへんから出てくるヘクトーっていう飼い犬、いろんな人からいろんな呼ばれ方してるじゃないですか。例えば、異端児のヘクトーとか、おもちゃだとか、いろいろ書かれてあって、結局、ヘクトーってどういう性格の犬だったんだろうとか、どういう見た目だったんだろうとか、そういうのがこの本からああんまり僕は想像ができなかったので、そこが難しかったなというか、想像しづらかったなと思いましたね。
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