「草枕」最初は評論? 2章から急に「おい」って始まる…<アイラヴ漱石先生朗読館=2023年2月12日放送>

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熊本日日新聞 2023年2月12日 00:00
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ

おはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック、アイラヴ漱石先生が令和4年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを、熊本の高校生の皆さんと探究していきます。最終回の今日は、済々黌高校2年生の松本大蔵さん、池田周治さんと、漱石の中編小説、草枕の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部付属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。

<朗読>「草枕」

山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情(じょう)に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高(こう)じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画(え)ができる。

鉄車はごとりごとりと運転する。野武士の顔はすぐ消えた。那美さんは茫然(ぼうぜん)として、行く汽車を見送る。その茫然のうちには不思議にも今までかつて見た事のない「憐れ」が一面に浮いている。「それだ!それだ!それが出れば画になりますよ」と余は那美さんの肩を叩きながら小声にいった。余が胸中の画面はこの咄嗟(とっさ)の際に成就したのである。

<本田>朗読は松本大蔵さんでした。それでは、最終回の今日は、済々黌高校2年生の松本大蔵さん、池田周治さんと、漱石の中編小説、草枕の魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。

<西口>草枕の舞台は、今の玉名市の小天です。熊本では特に、漱石のこの小説を大切に思って、例えば、草枕国際俳句大会、地元の芳野小学校の漱石俳句ウォークラリーなどが毎年行われています。熊本にいた明治30年の暮れから正月にかけて、漱石は五高の同僚の山川信次郎と旅をします。この小天の旅から、9年後、明治39年の7月26日に草枕を書き始め、なんと2週間後の8月9日には書き終えているのですから驚きです。山道を登りながらこう考えた。この冒頭の一文で、読者はもう漱石に捕まってしまいます。どう考えた?と思いつつ続きに目が向きます。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される、意地を通せば窮屈だ、とかくに人の世は住みにくい。ここまで読めばその通りと膝頭を打ちます。ところがその後、詠史、漢史、俳句、絵画の話題になると、ついていけないという気になってしまうのです。けれどもそこでもう一度冒頭に戻ってみましょう。住みにくさが高じると安いところへ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟ったとき、詩が生まれて画ができる。そうです。漱石は詩の世界、画の世界を描いているのです。詩のように音読し、画のように眺める。そんな姿勢で気楽に読めば、漱石が描こうとした桃源郷のようなユートピアがきっと見えてくるでしょう。そしてそこから再び現実世界へ出たときに野蛮な近代が見えてくるでしょう。危ない、危ない、危ないと繰り返す漱石。漱石の文明批評をこの作品に強く感じます。おっとりしていながらも恐ろしい作品です。

<本田>ではここからは3人で作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。

<西口>松本くん、池田くん、今日よろしくお願いします。

<高校生>よろしくお願いします。

<西口>まずはなぜこの作品を選んだかっていうところを簡潔に話してください。松本くん。

<松本>ちょうど授業でも夏目漱石のこころっていう文学作品に触れて、次どれを読もうかってなったときに有名な草枕を読んでみたいかなと思って読みました。

<西口>読んでよかったですか?

<松本>そうですね。草枕を通して漱石とより一歩近づけた、心の距離が近くなった、そんな感じがします。

<西口>池田くんはどうですか?なぜこの本を選びました?

<池田>冒頭シーンはすごく有名だと思うんですけど、その冒頭シーンから、この言葉からどういう風に小説が展開されていくのかっていうのがすごく気になってたので、それでこの本を選びました。

<西口>じゃあどういう風に繋がっていましたか?展開の仕方を思い描けなかったですか?それとも、なるほどね、そうだよねっていう風に感じたのかな?

<池田>いや、思い描けなかったですね。最初は本当にわからなくて、どちらかといえば古文とか漢文に出てきそうな教訓みたいな感じだったから、ここからどうなるのか本当に予想がつかなかったんですけど、最初に結構この主人公の芸術に対する考え方とかが展開されつつ、非人情の旅をしていく中で、いろんな人と会って、その一つの画が完成するっていう物語が、物語と主人公の考え方が織り混ざっていくのがすごく私としては新しい、新鮮な小説だったなと思います。

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