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「草枕」なんで身投げしているシーンを書いてほしいんだろう<アイラヴ漱石先生朗読館=2022年11月6日放送>

#読むラジオ
熊本日日新聞 2022年11月6日 00:00
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ

おはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック「アイラヴ漱石先生」が、今年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを、熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、熊本北高校2年生の原田睦海さん、吉村帆乃佳さんと、漱石の中編小説「草枕」の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。

<朗読>「草枕」

山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。
智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情(じょう)に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高(こう)じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画(え)が出来る。

鉄車はごとりごとりと運転する。野武士の顔はすぐ消えた。那美さんは茫然(ぼうぜん)として、行く汽車を見送る。その茫然のうちには不思議にも今までかつて見た事のない「憐れ」が一面に浮いている。
「それだ! それだ! それが出れば画になりますよ」と余は那美さんの肩を叩きながら小声にいった。余が胸中の画面はこの咄嗟(とっさ)の際に成就したのである。

<本田>それでは今日は、熊本北高校2年生の原田睦海さん、吉村帆乃佳と、漱石の中編小説「草枕」の魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。

<西口>この作品は、今から116年前、1906年、明治39年の9月に発表されました。日本とロシアの戦争が1904年から翌1905年に起きました。その戦の最中の春、一人の画家が山里の温泉郷に旅をするという内容です。その道中の風景、彼の胸にわく想い、宿で出会った謎多き美女、那美との交流などを描きます。この小説の舞台、のどかな温泉郷が、今の熊本県玉名市の小天温泉です。明治29年に熊本にやってきた漱石は、機会あるごとによく旅をしています。明治30年の暮れから新年にかけて、30歳の漱石は、同僚・山川信次郎と一緒に小天の名士、前田案山子の別邸に逗留しました。その折の体験が、この草枕の素材となったのです。前田家の娘、卓が、那美のモデルとも言われています。なんといっても、この小説の一番の売りは、「吾輩は猫である」「坊っちゃん」と並んで世に知られている冒頭文です。「山路を登りながら、こう考えた」。この山道は、金峰山を登る道です。驚くべきは、この作品が、「吾輩は猫である」を書き終えた10日後、1906年7月26日に書き始められ、なんと8月9日には出来上がったということです。2週間という短期間に、すらすらと溢れる思いを綴った作品なのです。おそらくその溢れてくる思いや考えについて、読んでもちっともわからないという気持ちになるところがあるかもしれません。そんな時は、そこを読み飛ばすべし。そんな強引な読み方をしても、この作品の魅力はなくなったりしませんから。

<本田>では、ここからは3人で、作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。

<西口>よろしくお願いします。

<原田><吉村>よろしくお願いします。

<西口>まず、「草枕」は熊本の人たちにとっては特別な作品なんですね。だから、熊本だと「草枕」だろうということで、いろんな人たちが読むことを勧めるんですけれども、原田さんと吉村さんは、これをスッと読めましたか? 原田さん、どうですか?

<原田>やっぱりちょっと難しかったです。

<西口>ちょっと難しかった?

<原田>ちょっとじゃないかもしれません。

<西口>そうですか。吉村さんはどうですか?

<吉村>結構難しくて、読むのに苦労しました。

<西口>私も毎回読むたびに挫折しそうになるんですけど、でもさっきちょっとお話しした時に、原田さんは初めて読むのではないと言ってましたよね。いつ頃読んだんですか?

<原田>いつ読んだのかははっきり覚えてないんですけど、祖父の家に文豪の方々が書かれた本がたくさんあって、多分それを読んだのが初めてだと思います。

<西口>おじいちゃんが読んだ本を読んでみようという、その環境が良かったと思うけど、これを読もうというのは相当すごいよね。でも、読み進められたということは何が良かったんでしょうね?

<原田>多分、言葉のリズムとかそういったものが気に入ったのではないかなと思っています。

<西口>言葉のリズムということはよくわかります。でも改めて聞きますが、難しかった。かなり難しかったと先ほど話されましたが、それでも好きなシーンとかがあったと思うんですね。次はそれを聞かせてください。吉村さんどうですか?

<吉村>那美さんという女の人が出てくるんですけど、その那美さんが主人公の画家さんに自分が池に身投げをしているシーンを書いてほしいと頼むんですけど、それがなんで身投げをしているシーンを書いてほしいんだろうなとすごく疑問に思いました。

<西口>身投げをしようとまず思うところから、はてな、ですもんね。原田さんはそのことについて何か思ったり考えたりしました?

<原田>どうせだったら死ぬところを美しく描いてほしいとかっていう願望があるのかなとは思いました。

<西口>そう、生きている姿ではなく死ぬという姿を美しく描いてほしいという、ミレーの描いた有名なオフィーリアの絵があるので、そういうものへの憧れだったのかもしれませんね。那美さんは本当に死んでしまおうと思っていたと思いますか?

<吉村>いや、本当に死のうと思っていなかったんじゃないかなと思います。私は。

<西口>じゃあ、なんでそんなことを言ったんでしょうね、原田さん。

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