「坊ちゃん」最近の少年漫画のようなヒーローが活躍する物語<アイラヴ漱石先生朗読館=2022年10月30日放送>
#読むラジオおはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック「アイラヴ漱石先生」が、今年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを、熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、第一高校2年生の米﨑颯来さん、原田和佳さんと、漱石の中編小説「坊っちゃん」の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。
<朗読>「坊ちゃん」
赤シャツはホホホホと笑った。別段おれは笑われるような事をいった覚(おぼえ)はない。今日(こんにち)ただ今に至るまでこれでいいと堅(かた)く信じている。考えて見ると世間の大部分の人は悪くなる事を奨励しているように思う。わるくならなければ社会に成功はしないものと信じているらしい。たまに正直な純粋な人を見ると、坊(ぼ)っちゃんだの小僧(こぞう)だのと難癖(なんくせ)をつけて軽蔑(けいべつ)する。それじゃ小学校や中学校で嘘(うそ)をつくな、正直にしろと倫理の先生が教えない方がいい。いっそ思い切って学校で嘘をつく法とか、人を信じない術(じゅつ)とか、人を乗せる策(さく)を享受する方が、世のためにも当人のためにもなるだろう。赤シャツがホホホホと笑ったのは、おれの単純なのを笑ったのだ。単純や真率(しんそつ)が笑われる世の中じゃ仕様がない。清はこんな時に決して笑った事はない。大(おおい)に感心して聞いたもんだ。清の方が赤シャツよりよっぽど上等だ。
<本田>朗読は米﨑颯来さんでした。それでは今日は第一高校2年生の米﨑颯来さん、原田和佳さんと、漱石の中編小説「坊っちゃん」の魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。
<西口>「坊っちゃん」は1906年、明治39年4月、俳誌「ホトトギス」に発表された作品です。イギリス帰国後、漱石が気晴らしのために筆を取った第一作目が、「吾輩は猫である」、そして第二作目がこの「坊っちゃん」です。とってもポップで読みやすい作品。後先考えずに行動する江戸っ子の「おれ」が主人公。発表されてから116年たった今でも、この作品が色あせない理由はテンポの良さ。とにかくノリが良くて読みやすい。漱石が坊っちゃんの姿を借りてやりたい放題。坊っちゃんの生きている姿をノリノリで書いています。この作品は28歳の漱石が愛媛県の松山中学校に英語教師として赴任した体験を、もとに書かれた青春冒険物語。どこにも自分の居場所を持たない漱石と坊っちゃんが重なります。読者は正義感の塊のような若者が旅に出て、まがまがしい者たちや恐ろしい怪物をやっつけて、再び出発点に戻ってくる物語を近い距離で見ている感覚を楽しめます。「おれ」という一人称の語りは、読者に向かって直にグングン語りかけてくるような力があります。また、赤シャツ、野だいこ、山嵐、うらなりなどなど、一癖も二癖もあるキャラクターたちも見逃せません。江戸っ子の坊っちゃんと松山弁の生徒たちとのやりとりも笑えます。それから、清という存在にも目を向けたい作品です。破天荒、無鉄砲、そんな坊っちゃんがさてさて完全懲悪に成功するのか。軽妙な文章のリズムを存分に味わいたい、痛快ハードボイルドです。
<本田>ではここからは3人で作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。
<西口>ではよろしくお願いします。
<米﨑><原田>よろしくお願いします。
<西口>2人は2年生ですか? 17歳。
<米﨑><原田>17歳です。
<西口>この作品は書かれてから100年プラスあなた方が生きた時間経っています。でも古ぼけていませんよね。
<米﨑><原田>はい。
<西口>それはなぜだと思います? 米﨑さん。
<米﨑>はい。これは最近の少年漫画のようなヒーローが活躍する物語なので、私たちが共感できる部分がたくさんあるから古ぼけていないんだろうなと私は感じます。
<西口>少年漫画そのものですもんね。原田さんはどう思いますか?
<原田>私は伝えたいことがたくさんあるので、みんなに伝わるように新しい文体にしているんじゃないかなと思います。
<西口>そうね。漱石は古い文体も使うけれども、あえて伝えたいことがあるために新しい、分かりやすい文体にしたんじゃないかという答えでしたね。じゃあ「坊っちゃん」を読んで、どこが面白かったですか? 米﨑さんから聞こうか。
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